次世代産業ナビゲーターズ・フォーラムに参加。今回はメンバーズプレゼンテーションとしてベタープレイス・ジャパン(株)代表取締役の藤井清孝さんの「正解のない時代の処方箋」というお話と、財務省財務事務次官の杉本和行さんの「日本の未来は?」という講演でした。

どちらも、私にはよくわからない専門用語も多々あったものの、全体として、次の時代の日本のことを考えるための、より大きなフレームを与えてくれる刺激的なお話でした。たぶん、完全な理解はとうていし得ていないとは思うのですが、今の段階の私に響いてきたことば、印象に残ったこと、役立てたいことなどを、個人的な備忘録としてランダムにメモしておきます。

★藤井清孝さんのお話

・日本産業の強みに、「オペレーショナル・エクセレンス重視」がある。オペレーショナル・エクセレンスとは、あたりまえのことをあたりまえにきちんとできる、ということ。この点は日本が世界の中でダントツに強い。自己規律的な国民性も強み。

・弱みとしては、企業の事業に対するフォーカスが弱いこと。大企業がニッチに参入してしまい、なにやらいろんなところでやみくもな過当競争が起きていて、みんながみんななにかの事業に参入しているけどフォーカスはしない、という型が蔓延している。人材市場が硬直化していることも、弱み。

・日本産業の再生の処方箋としては、事業フォーカスされたグローバルナンバー1の企業作りを目指さねばならないだろう。過当競争をなくす業界構造の再編成も必要。また、愚直なものづくりだけではこれからは不十分であり、アジアにおける「ものづくりの雄」になる鍵として、「日本のクオリティ+中国のコスト+韓国のスピード」のいいところどりが求められる。現場の強みを収益に反映させる戦略も、必要。

・顧客から見たら「自分だけに対する特別なカスタムサービス」と見えるが、実はそれは裏から見たら汎用化されたシステムに基づくもの、というような見せ方ができるものがあれば応用範囲は広い。たとえば、フォーシーズンズ・ホテルはフロントで3回、顧客の名前を呼んで話しかける。「ミスター○○」と。客から見れば「自分だけに対するサービス」、でもサービス提供者にしてみれば汎用化されたシステム。

・イノベーション力を強化するには、顧客の言うことを聞かない製品開発が必要だ! ある水着メーカートップは「選手に嫌がられてでも新しい発想の水着を開発する姿勢が必要だった」と語っているし、ルイ・ヴィトンの製品開発哲学には、「お客様をあっと言わせ、ワクワクさせる製品を作るには、お客の言うことを聞いてはいけない」というのがある。CS(顧客満足)なんて言ってアンケートなんかとっているばかりでは、ほんとうに客に感動を与えるすごい製品をつくることなんてできないのだ。

・グローバルに通用するためには、コンセプトをプラットフォーム化することが必要。たとえば、世界で売れる「ザガット」や「ミシュラン」は、誰がどういう基準で採点しているのか、コンセプトが明快。だが、日本だけで人気のある「大人の隠れ家」「東京いい店うまい店」といったガイド本は、「日本村のかわら版」として人気が高いが、誰がどういう基準で載せているのかわからず、トータルでみたときに何を目指そうとしているのかわからないため、グローバルにいくことは難しい。 「格が上」とみなされるためには、コンセプトをどこでも通用するようにプラットフォーム化することが必要である。

・業界の狭い枠を超えた、ちがう絵を描こう。LPレコードがCDになるときに、音響機器業界はその周辺をフォローすることだけに躍起になっていて、コンピュータで音楽をダウンロードするという絵までは描くことができなかった。結局、大きな違う絵を描いていたアップルに、いいところをもっていかれてしまった。業際的にものごとを組み合わせて「トータルに大きく見ると、違う図」を描くことが大切。

・・・・イチもの書きにも通用する汎用性の高いお話でした。よし。これからは読者の注文を、聞かないことにしよう(笑)。たしかに、お客様の想像のレベルをドカンと超えるくらいのものを提供するんだという心構えじゃないと、驚きや感動なんて与えられないのである。

★財務省 財務事務次官 杉本和行さんの講演。

とにかく私にとっては「財務省の財務事務次官」っていうだけで、雲の上の人だった。いったいどういう人なんだろう!?という人間的興味が最優先。

おだやかでやさしげな口調と風貌ながら、めちゃくちゃ頭がきれてそつがなくいやみなく手ぬかりなし、といった頼もしい印象でした。「うわっ、日本の財政をこんなあたまのよい方にお任せしてるって、たのもしー!尊敬っ!」と感激(ミーハーです、はい)。近年の国際金融状況・世界経済をめぐるフェーズの変化と、それに対して日本政府がとってきた財政政策を、こまかなグラフや数字を駆使して詳しく紹介してくださいました。細部の動向の話にはさっぱりついていけなかったものの、この2,3か月で上向きに持ち直している、ということはわかった(・・・)。

最後に、メンバーからの質問に答えるときに、ちらっとヒューマンなお話を披露していただいたことが印象に残りました。

日本では、「叱られるばかり」。これがよい結果をもたらすはずはない、という話。たとえば官僚はフレッシュマン時代に、「何のためにこの仕事を?」と聞かれたとき、「公の利益のために仕事をしたい」と答える。そういうよき希望を持った人が大半である。

それが途中で方向がゆがんでしまうことがある。たてわりの組織の力でやっていかなくてはいけない中、政治家に叱られ、マスコミにたたかれ、としているうちに委縮してしまうことがある。委縮すれば視野が狭くなり、庭先しか見なくなる。それが結果として、国民の利益にならない成果につながってしまうことにもなりかねない。

日本にはほめるカルチュアがないのが問題。ねたみそねみひがみやっかみ・・・・の七味トウガラシばかりで、仕事をやろうとしている人の足をひっぱっても、なんのいいこともない。正当に批判すべきことがあればもちろん批判すべきだが、ほめるべきときにほめて、激励していくことが、結果として日本全体にいい結果を及ぼすことになる。

この話は、最近の匿名中傷などのこともあって、すごく響いた。人はけなされると、たとえそれが不当なもので、無視が妥当であると頭で理解しても、まったくモチベーションを失うのである。雲の上の人に見える官僚だって、私たちと同じ、デリケートな心をもつ人間だ。日本社会に根深くはびこる「七味トウガラシ」カルチュア、日本人がほんとうに自分の利益を考えるなら、まずはこれを撲滅しないと、と心底思う。真剣に努力している人は、ほめよう。そうすることで、のびやかに能力を発揮してもらえれば、よい結果がめぐりめぐってくるはずである。官僚のみならず、公のためを思ってがんばっている人をけなすばかりでは、彼らのすぐれた能力を委縮させ、結果として国益をそこなうことにもなりかねない。

梅田望夫さんが「日本のウェブに失望」というような発言をなさっていたが。中傷や罵詈雑言ばかりがあふれていて、ほんとうのトップの人が萎縮して敬遠し、ウェブの良い点を生かしきれていない、というのはたしかに日本にとって残念なことに感じる。他人に七味トウガラシをまぶして悦に入っている匿名の人は、結局、トータルに見れば自分の利益も損ねていることになる。管理者も、感情の垂れ流しで人を不条理に傷つけるような書き込みに対しては、もっと高い意識をもって責任をもつべきではないのか。それが公益に、ひいては、自分自身の利益につながる。

国の財政に関する大きな話を聞いたのに、聴き手の専門性が低いために、なんだかすごく卑近なレベルの話しか残らなかったみたいだが。でも、財務事務次官という立場の人の責任感や仕事、人柄に少しでも触れることができたのは、ものすごく貴重で、幸運な体験でした。

「100年に一度」とされる経済危機の時代に財務次官になったことを、「運が悪かった」とは考えず、「運がよかった」(試練がたくさん与えられるため?)と考えるようにしているという杉本次官の仕事に対する姿勢には、高貴な品位を感じました。たいへんな時期ですが、日本の明るい未来のために、どうかがんばってください!

個の小さな問題を離れて、大きな枠、違う視点でものごとを考える具体的なヒントのシャワーを浴びるという、お宝のような時間を過ごすことができたことに感謝。

2 返信
  1. マエダ
    マエダ says:

    初めてコメントします。
    書かれていた「七味トウガラシカルチャー」のお話に深く同意します!
    昨年参加した、精神科医の名越康文先生と神戸女学院大学の内田樹先生のお二人での講演会でも同様の話をされていました。
    その時は医療崩壊について話されていたのですが、モンスターペイシェントといわれる状況について、
    「公的なもの、確固たるものは、それはどんなに攻撃を加えても揺るがないと甘える一方で、激しく攻撃する。
    たとえば、普通の人が突然スーパーで店長を呼べと激怒したり・・・親が先生相手にキレたり・・・
    これは親や学校に反抗する思春期の子供ではないか。」
    という話の展開でした。
    日本総思春期?
    結局、攻撃してもけなしても生産性はないですよね。
    それに気づいた人達が、草の根運動のように、褒めるときは褒めるという大人の行動をとるしかないですね。

    返信
  2. 中野香織
    中野香織 says:

    マエダさん、コメントありがとうございます。共感してくださる方が一人でもいらしたというのは、たいへん、心強く、ありがたいことでした。
    興味深い例ですね。なるほどたしかに、突然キレたりどなったりするモンスター系の行動は、「思春期」にたとえられるのかもしれないですね。視野があまりにも狭すぎる…。結局それが自分の利益にとってマイナスに働くということまで想像が及ばないのかもしれません。
    公のために働いている能力の高い方の多くは、高いビジョンを抱いて最大公約数の利益を考え、たいへんな努力をしている人が多いと思います。その仕事を辛抱強く見守り、おかしいと思えば指摘するにしても、ほめるときには盛大にほめて、のびのびと高い能力を発揮していただければ、結局、社会全体の利益につながる。ひいては自分にそれがかえってくることになります。
    こんなきびしい時代だからこそ、高い志を抱いてがんばっている人を萎縮させてはいけないと思うのです。雲の上の人に見えるえらい人だって、自分と同じ繊細な心をもつ人間。不条理にけなされれば、能力を発揮するどころじゃなくなります。私は、ナイーブと陰口をたたかれようとも、日本社会の空気を少しでもよくするために、人の善性と理性を信じて、状況が許す限り「応援&感謝ジャーナリズム」(?)でいきたい。それが結局、公の利益と幸福への近道ではないかと思っているのですが。

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