◇気になって切り抜いていた新聞記事から、断片的に備忘録。6月10日(水)朝日新聞夕刊の、白石嘉治さんの「なぜ大学はタダでなければならないか 金銭になじまぬ認識・感情」より。

「なぜ大学はタダでなければならないのだろうか? ・・・(中略)・・・ なにより理解すべきは、大学であつかう認識や感情の表現が売買できない性質のものであることだろう。・・・(中略)・・・大学の無償性の国際的な合意を根本で支えているのは、そうした認識や感情にかかわる営為を金銭の論理によってコントロールすることへの違和感にほかならない。」

「今年の2月からフランス全土におよんだ大学のストライキで、その象徴となっていたのは恋愛小説の古典『クレーヴの奥方』(ラファイエット夫人)である。発端は『こんなものを読んで何の役に立つのだ』という、新自由主義的な『改革』を迫るサルコジ仏大統の発言だった。・・・(中略)・・・ 金銭の論理に対峙しつつ賭けられているのは、書物をひもとき、ゆっくりとものを考え語り合うための共同性を営む権利である。」

この記事をなんども味わい深く読みつつ、大学時代をなつかしく思い出した。「役に立たない」学問にたっぷり触れることができた、豊かで貴重な時間だった。気がついたら私自身もまったく「役に立たない」ことを書く「役に立たない」人間のはしくれになろうとしていて、そうあることが快いと思っていた。でも、シビアな現実を生き抜かなくてはいけなくなったとき、そんな贅沢なことばかりも言っていられないことを、身にしみて知る。今も、どっちの方向にもそれなりの意義があると思い、大きくゆれている。

◇6月26日(金)朝日新聞夕刊の、森直人さんによる「トランスフォーマー リベンジ」評、「快楽もたらすド派手さ」。

「・・・世界観が壮大になればなるほど、荒唐無稽な印象が増す。また作り手も観客を知的に説得する気はないようだ。・・・(中略)・・・ 瞬間的な快楽をもたらす”ネタ”でびっしり埋めていく。この怒涛のつるべ打ちを痛快と取る向きもあるだろうが、実際の体験の質は、感覚の麻痺に近い。実写とCGが見事に混在した破壊と暴力のスペクタクルは、全体が玩具的で、こちらの生々しい感情を呼び覚ますものではない。ただハイスピードの展開に脳も肉体も支配され、”無痛の刺激”が均等に続いていく。映画を見ている間は、麻酔薬を打たれたように現実の時間を忘れることができるのだ。」

この種の映画を見ているときにいつもぼんやりと感じていた、ことばにならない感覚を、なんと的確に表現してくださっていることだろう。刺激の連続に見えて、たしかにアレは「無痛の刺激」である。

それが悪いというわけではない。森さんもちょっと皮肉まじりに「これは現在の最先端を示す一本と言えるだろう」と結んでいるが、なんだかこの種の、思考停止状態に陥らせてくれる「無痛の刺激」に心身をゆだねたくなることも、たしかにある。

「無痛の刺激」という名言から連想したのは、アミューズメントスペースの最新型メダルゲーム。あれもまた「無痛の刺激」の宝庫なのだなあ、と。写真はこどもにつきあわされた某ゲームでシルバージャックポットをあて、1185枚のメダルがふってきた瞬間。Photo_2 エルガーの「威風堂々」が大音響でかかり、強い刺激のシャワーの連続でなんだかとても興奮させられたように錯覚するのだが、感情はぜんぜん動いていないのである。

4 返信
  1. gadogado
    gadogado says:

    特に最近サマーホリデーとアイドル(idleness)の重要性(特にその後の人生における影響)について考えていたせいもあり、ウエの記事大変興味深く読ませていただきました。
    あっつい日は特に何もしないで本でも読みながらやりすごす毎日。そういうねっちりとした夏を堂々とすごせるのが大学生という身分なのにそれをしなかった自分はなんて馬鹿なんだろう。
    P.S「役に立たない学問」にたっぷり浸かル事ができた中野さんがとてもうらやましいです!

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  2. nakanokaori
    nakanokaori says:

    gadogadoさん、コメントありがとうございます。モリエールのたった10行を90分かけて読んでいた時間、ヘンリー・ジェイムズの半ページを90分かけて議論していた最中には、「なんて自分はむだな時間を過ごしているのか」と自虐的になったりしたこともありましたよ。この時間に将来役立つ資格をとる勉強でもすべきなのではないか、とか(笑)。でも、「カネ・効率・自己啓発」ばかりがもてはやされる現状を見ると、反発の気持ちが起きて「役に立たない本」の豊かさを声高に唱えたくなります。複雑です。

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  3. gadogado
    gadogado says:

    役に立たない本ばかりよむ役に立たない学問の立場はこの不況下で大変くるしいものがありますね。私の住むイギリスでもオリンピックを控え政府の懐もきびしいのはわかりますが将来金にならない文系(アートヒストリー等)を教える大学、研究機関の予算カットはかなり厳しいものがあります。テートにいたっては予想動員数が8万人を超えない展覧会は赤になるだけなので今後しないとか。ほぼ全てのことが数字で表せる事が可能になってしまったがゆえに、スグにカネに直結してしまうのには困りますね。

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  4. nakanokaori
    nakanokaori says:

    イギリスでもそうなんですか。数字に表せない意義もあるだろうに…。とはいえ、歴史をみても、やはりまず経済力があってこそ学問芸術も発達するんだろうなあと思えることもたしか。芸術家のスポンサーになってきたのはお金持ちだし。カネカネと言われるのは不快だけどそれが最低限保証されなくてははじまらない…。
    でも逆に、経済状況が厳しい時代だからこそ、バブリーではないホンモノだけが残りうるのかな、という期待も少しあります。バブルのころには「これがアートか?」みたいな妙なものにまで値段がついてましたが、それが淘汰される。学芸を志す人には真剣な覚悟が問われる。せめてこれがよい結果となってあらわれることを願っています。

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