ミカ・X・ペレドのドキュメンタリー映画のDVD「女工哀歌(CHINA BLUE)」を観る。

「安い!」ことが絶対の価値であるかのようにモノを買う人は、どうかこれを観てほしい、と思う。信じられないほど安い服が存在するのはなぜか? 理由があるのだ。多くは暗い理由が。製造・流通のどこかの段階で、誰かが不当な目にあっている。

「ウォルマート」の製品を請け負う中国のジーンズ工場で、出稼ぎとして働いている少女たちの、あまりにも過酷な労働状況が描かれる。一日18時間以上、ときには貫徹の、休みなしの労働、時給7円(!)以下。残業代ゼロ。眠らないよう、まぶたに洗濯ばさみをはさまれる。ただでさえ安すぎる賃金から、食事代(粗末きわまりない)だの水道代だの管理費だのが天引きされる。初任給は、退職を防ぐための「デポジット」として支払われない。夜間の外出は禁止になることもあり、それでも禁をおかすと罰金が課される。当然、帰省すらままならない。インターナショナル査察官にはウソを申告させられる。奴隷労働以下であるが、まともな教育も受けていない少女たちは、そんな状況が「労働基準法」に反する不当なことであることさえわからない。工場長も、「ジーンズ1本あたりの価格を下げて国際競争に勝つ」というプレッシャーのもとでは、それだけやらないと利益を上げられない。

この非人間的な搾取の上に成り立っている、明らかに適正ではないレベルの「安い服」を、それでも「安いから」という理由で買っていいのだろうか? マスメディアも、「激安!」ということだけで、手放しでホメていいのだろうか? 

雨宮さんにインタビューしたとき、デモ隊に参加するプレカリアートの多くは、299円のTシャツを着ている、と知らされた。ネットカフェの近くに、自動販売機で「シャツ、パンツ、靴下」のセットが300円で売っている、とも。(材料調達、製造、梱包、流通、販売の手間を想像すれば)ひとりの労働者の最低限の時給以下の価格で衣類のセットが売られている、そのことじたい、異常なことであるはずだ。

でも、不当にこきつかわれているフリーターや派遣労働者の多くは、古着をもらうことを除けば、異常なほどに安い服を買うという選択肢しかない。選択肢そのものがない。生きることにめいいっぱいで、値段のしくみまで考えている余裕はない。それは痛いほど理解できる。で、その安い服を作らされているのは、彼らよりもさらにひどい搾取の上に働かされている海外の労働者なのだ。不当に搾取されている労働者が買える唯一の服が、さらに酷く搾取されている海外労働者が作った服であるという哀しみ。理不尽きわまりない悪循環で、どうにもやるせなくなる。

せめて、選択肢がほんの少しだけでもある消費者は、「安さ」の理由の奥を知って、そのうえで何を買う(=一票を投じる)か買わないか、考えて決める義務があるように感じる。

って、すまん、エラソーで恐縮だが。でもやはり、ひどすぎる条件にも負けず、夢を抱いてひたむきに働いている10代の少女たちの姿に、「働き者で勇敢な中国人たち~♪」という歌が皮肉に重なるラストあたりでは、悲しいのをとうに通り越して、涙も枯れ、自分にできることはなにか、と問い始めている。

4 返信
  1. AW
    AW says:

    以前,イタリア製の下着を買ったとき,箱に,正確なことは忘れましたが,この製品を作るのに子供を働かせていませんというような意味のことがわざわざ書かれていました。子供の労働に反対して某スポーツ靴メーカーの不買運動があったとも聞いています。
    「私は極端に安い服は買わない。質が悪いからではなく搾取しているから。」と言い切れたら。ただ,日本製でも研修生をものすごく安くこき使って出来たものかもしれないし,何で判断したらいいのかわからない。
    激安ファッション大流行などと報じるマスコミも必ずしも悪くない気もするし。
    難しいですね。

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  2. nakanokaori
    nakanokaori says:

    ご指摘ありがとうございます。たしかに、私も実際買う段階になって、どうやって判断したらいいのかわからない、ということが多々あって、結局うやむやのままに買ってしまうということもあります…。この経済状況では、「安いほうを買う」のはごくまっとうな消費者心理でもあることもよくよくわかります。誰が悪い、と決められるような一面的な問題ではないような感じがしています。
    日本で仕事がない労働者が、「中国語を学びながら研修できる」といううたい文句に誘われて、労働基準法が及ばない条件で(研修生だから)中国で実質奴隷労働させられているケースもあるという話も聞くにつれ、そのあたりの悪循環はいったどこから手をつければ断ち切れるのか、あるいは永久に無理難題なのか、わかりかねているところがあります。機会を見つけて勉強しているところです。現状がなし崩しにひどくなっていくようなのが歯がゆいかぎりなのですが。

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  3. gadogado
    gadogado says:

    確かに激安商品には裏があるわけですが、それでは有名ブランドの高級な商品だったらethically correct なのでしょうか?
    誰もが知っている Made in Italy を誇る某有名ブランド等でも、実際に作っているのは悪いブローカーの手を経て、人身売買の果てにイタリアにたどり着き、外に出ることも許されず、言葉も通じない知らない町で太陽の光も届かないビルの地下で奴隷のように働かせられている中国の人たちの場合が多々あるのです。安い=悪、高い=良、という図式が簡単には成り立たないのでこの問題は本当に難しいですね。

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  4. nakanokaori
    nakanokaori says:

    gadogadoさん、鋭いご指摘ありがとうございます! そっちのほうが、ブランドが暴利をむさぶる率が大きい分、はるかに悪質ですよね。消費者も「メイド・イン・イタリーの高級ブランドだから」ってありがたがってる分、よけいタチが悪い。
    英ニットブランドのジョン・スメドレーがわざわざ労働者の様子までウェブに載せて「私たちは倫理的に作ってますよ」と宣伝しているのは、逆に、そういうメーカーが少ないことの証なのかな・・・と思えてきたりもします。
    たしかに、高いからといって必ずしも正当で人道的な生産・流通の過程を経ているともかぎらないのですよね。
    考えてみたら、モノの「適正価格」というのはいったいどのくらいなのか、なにを基準に「適正」といえばいいのか、「適正」だったらはたして人がそれを買うのか、実は私もよくわかりません。そういうところまで含めて考えると、この問題にはほんとに単純には片付けられないさまざまな要素が底なしにからんでくるような気がしています。

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