◇地震のときにこれが落ちてきたらぜったい重みでつぶされる、と感じた過去何年分かの資料のスクラップを一部整理。ほんの2~3年前の切り抜きですらまったく「使えない」情報と化していることにガクゼンとする。自分はおそろしく虚しいことに時間を費やしてきたのではないかという徒労感に襲われ、しばし落ち込む。気をとりなおし、ざっと目を通した上で30冊分ほどのファイルを捨てたが、「切り抜きを処分する前にいま一度覚えておきたい」と思ったことがらを、以下に記す。ジャンルは雑多だが。

・藤沢周さんが今はなき「ストレート」に連載していた「独酌余話」の第4回「反・蘊蓄」より――「知識があること。あるいは極言すれば、頭がいい、ということに対する恥じらいを知らない大人は、見苦しく情けない。不惑過ぎれば、嫌でも何かしら一家言持つであろうに、何も衒うほどのことでもなかろう。むしろ、それを隠す所作にこそ色気が生まれるのである。・・・(中略)・・・何より、人間の抱える知識や経験の豊穣に対する面白さは、そこに執着してしまうその人の狂いが面白いわけで、知識なぞ本にいくらでも詰まっている」。

・シチュエーショナル・インティマシー(situational intimacy)。恋愛関係にあるわけではないのだけれど、場所や行動をともにしているために、いやでも発生してしまう親密な感情のこと。職場の同僚とか、社長と秘書の間に発生する感情がコレ? 案外見過ごされがちな感情に名前があったり、感情に名前をつけたりすることは、なかなか面白い。

・2006年7月31日のAERAの記事。「ストーリィ」8月号と「NIKITA」8月号の表紙が同じ「ダイアン フォンファステンバーグ」の格子柄ワンピでかぶってしまったという記事。業界的には、かなり恥ずかしい失態として話題になっていた。でも、「上品奥様」と「アデージョ」(恥)がともに着こなせる服として、かえってブランドにとってはよい宣伝になったのではなかったか。たしかこの事件をあるファッション誌に好意的に書こうとしてダメ出しをされたのだった。ブランド的には二度と触れてほしくないタブーだったので。でも、時間がたって「歴史」となれば、ブランドにとってはよい効果をもたらしたできごととなっているはず。それにしても、「NIKITA」は笑える雑誌で、言語感覚もシャープ、毎号ほんとうに楽しみにしていたのに、「ヴァケーション」に行ってしまった。復活を強く望む。

・「恋愛サイクルMD」。たぶん「繊研新聞」の切り抜きだと思うが、掲載紙と日づけをメモしていなかった。9月は合コン強化月間として、キメ服であるワンピースを仕掛ける、というMDの話題。9月に本命をゲットし、10月から付き合い始めないと、クリスマスを一人で過ごすことになりかねないので、9月は合コン市場が拡大するんだそう。季節に応じたMDよりも確実なのかもしれない、と苦笑。

・2006年9月8日(金)朝日新聞の「ニッポン人脈記」。鷲田清一先生がモードについてお書きになっていた当初、恩師の一人にさりげなく言われた言葉が、「『世も末だな・・・・・・』」。「ファッションに無関心だという人ほど、たとえばドブネズミ色の背広といったその時代の流行服を敏感に着ている。『そんな皮肉の意味を解き明かすことも面白かった』」。私も「世も末」に似たようなことばを何度も頂戴している。「そんな仕事はカス以下」と吐き捨てるように言われたこともある。さらさらと受け流すことのほうが多いが、心のどこかに残り、ことばが蘇ってきては「そうかもしれないなあ」と力なく思う自分もいる。

・同記事の深井晃子先生。「モードのジャポニズム展」など国外で高い評価を得たすばらしい展覧会を開催しても、「国内での反響はいま一つだった。特に『服飾関連業界からの反応が冷たかった』という。ファッションは理屈や歴史で考えるものではない、との当事者の考え方が強かったからだ」。アカデミズムからはカス以下呼ばわりされ、ファッション産業からは冷ややかに無視される。それが日本におけるファッション学である。鷲田先生、深井先生はそんな厳しい状況のなかで世の尊敬を勝ち得てきた。並大抵のことではない。そこまでのレベルに行くために必要なのは、執着する「狂い」?

◇どこまで信用できる情報なのか定かではないが、駿河湾から神奈川にかけてイオン濃度が高くなっているとか。ガセの可能性も否めないが、最近2~3日おきに続く地震のこともあり、いちおう、ヘルメットなど用意しておく。ちょうど模試を終えてきた長男が、「明日の朝あたりデカいのがくるかもしれん」→「今日の晩飯は最後の晩餐になるかもしれんな。助かってもしばらくは非常食だな」→「後悔しないようにうまいもの食べておこうぜ」というおそろしく飛躍した論理を展開する。買い物行くにも暑いしなあとひそかに思っていた私も賛同し、近くのヘイチンロウに北京ダックのコースを食べにいく。白ワインも(ひとりで)1本あけて、「これで明日きても悔いなし」状態。これも「備え」のひとつ、ということにする。

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