リンダ・ワトソン『ヴォーグ・ファッション100年史』(ブルース・インターアクションズ)。届いた本を見て、あまりに分厚いので読み切れるかと不安になったが、後半はデザイナー辞典のようになっている。各項目、読みごたえのあるコラム形式。データの羅列ではなく、こういうコラム風辞典は、とてもありがたい。

ファッションを「歴史」として語るのはほんとうに難しい。時代によって、さまざまな要素が思わぬ方向からからんでくるので、どこに視点を定めて書くかが大問題になる。視点が定まってないと、「あれもある」「これもある」「そんなこともあった」といった散漫な点描画になってしまうのである(自戒)。まあ、それはそれなりの趣きもあるのだが、どうしても「骨太感」に欠けてしまう。

その点、この本は「ヴォーグ」にがっちりと軸があるから、トーンが一貫していて、安定感がある。

とりわけ興味深かったのは、1940年代。戦火のなか、ものがどんどんなくなり、建物も生活も破壊されていくなかにおいても、ヴォーグは発行され続けていたのである。「黒いドレスは週日を通して活用できる万能服」(←染料の配給が乏しくなった1942年)。「世界で一つだけのドレス」(←モノを買えない、そもそも、ないから修繕して着なくてはならない1943年)。強くけなげなファッション魂。

1959年のヴォーグの「あなたにとってファッションとは何ですか?」という記事の引用も、思わずメモしたくなる。

「自立の象徴であり、同世代であることの証しなのだ。誤解しないでほしい。繰り返し言うが、流行のファッションに走ることは、決して非行の兆候などではない」。

まだまだ「非行の兆候などではない」と強くお断りをしなくてはいけないほど、偏見が強い時代でもあったのですね。

どの時代の写真も、まったく古さを感じさせず、しかも、時代のムードを鮮やかに表現している。永久保存版として愛せそうな本。久々に、出版社に感謝したい一冊である。

3 返信
  1. はすざわ
    はすざわ says:

     以前の記事に申し訳ありません。
     戦時下についてのファッションで思い出したのがこのエントリ『「ファシズム下のファッション」が届いた』(http://d.hatena.ne.jp/tadanorih/20091023)
     中の見開き1ページの写真を見ただけで言うのなんですが、イタリアという国が戦時下にあっても、軍服というジャンルにあってさえカッコよさを追及しているのが伺えるような気がします。不謹慎かも知れませんが、かの国が戦争に弱いのもむべなるかな、と。面白そうなのですが、全編英語だと私にはちとハードル高いので、中野さん訳に期待したり・・。
     ところで引用してくださったヴォーグの記事、「(ファッションとは)自立の象徴」という認識が戦時下にあってさえ保持されていたことは、さすがアメリカ(←ですよね?)だなと思わせられます。
     私たちの戦時下社会だと、どうしても『自立』より『同化』に目がいってしまいがちで、あるいはこれは今も大して変わらないのかも知れませんけれど。

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  2. AW
    AW says:

    メンズファッションで最も格好良いのはナチス・ドイツの将校の軍服であると塩野七生さんが書かれてたと思います。私もそう思いますが,あるとき,敗戦間際のヒトラー・ユーゲントの若い兵士がベルトでなく,紐を腰に巻いている写真を見て「こりゃ負けるわな」とものすごく悲しくなったことを思い出しました。

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  3. nakanokaori
    nakanokaori says:

    はすざわさん
    面白そうな本のご紹介、ありがとうございます。さっそく注文しました。ファシズムがファッションを利用してきた話については、何人かの研究者がすでに論文や本を書いているようですが、きちんと読んでみたことはありません。楽しみです。
    AWさん
    軍服が男の洋服を発達させてきた、という一面はありますよね。ナチスの制服は、たしか英王室の次男坊がコスプレして世間からバッシングにあうという事件がありました。ナチスを知らない世代の目で見れば、単純に「かっこいー」と映るようなところ、あるのかもしれません。

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