◇「サライ」2月号発売になりました。新連載「紳士のもの選び」始まりました。機会がありましたら、ご笑覧ください。

◇堀江敏幸『正弦曲線』(中央公論新社)読み終える。ゆっくりと、端正につつましく、深い文学的な時間が流れているエッセイ集。待ち時間や移動中などこまぎれの時間に、ひとつ、ひとつ、味わうように読んでいた。こまぎれ時間でさえ豊かで濃い時間にしてくれる、もの静かな親友のように感じられる本。エッセイひとつひとつがきらりと美しい世界なのだが、とりわけ印象に残っているのが、「風の接線」の話。グライダーがどうやって上昇するのか?という物理的説明文から、さりげなく文学的な味わいをひきだしていく堀江さんの想像力がとてもいい。

「空の密度を読み、AからBに向かって吹く風と、BからAに向かって吹く風がまじわる場所を捜し出し、双方の風速の差をうまく活用して上昇へのエネルギーに変換すること。目に見えない、ふたつの風の層のありか。『人類の飛行に際しては、この相反する風の接線を知る事が困難である』と著者は言う。・・・・・・・・・ 風はぶつかり、まじわるのではなく、巨大な力ですれちがうのである。ながく、しかも不安定に伸びるふたつの風の帯。そのはざまで、私も夢想の楕円を描いて高度を上げよう―、少しでも長く、言葉の空に留まるために」。

巨大な風の帯がすれちがい、その接線をたどって上昇していくイメージは、あらゆる「流行」にもあてはまるなあ・・・と思いつつ読んでいたのであった。

装丁がまた贅沢である。持ちはこべるほど軽い、どちらかといえばソフトカバーといっていい本なのだが、ケース付き。「目次」も「あとがき」も「はじめに」もない。珠玉の一粒一粒が、派手な宣伝とは無縁に、素朴に丁寧につめこまれた、こだわり職人のチョコレートボックスみたい? そこだけ時間が遅く流れているような装丁からも内容からも、なにか今の日本では切り捨てられがちな「良心」「志」みたいなものを大切にしていることが感じられて、ほのかにあたたかい気持ちになる。

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