◇ブノワ・デュトゥールトゥル『幼女と煙草』(早川書房)。眠る前に2~3ページずつ・・・のつもりが、あまりの衝撃的なコワ面白さゆえ、そのまま一気に最後まで読まされてしまう。

死ぬ前の権利として煙草を一服要求する死刑囚、ただ仕事中にトイレで煙草を一服隠れて吸いたかっただけの平凡で善良な中年男。たかが煙草一服をめぐり、それぞれの運命が思わぬ方向に急展開していく。ちょっとした「フィールグッド」な気分があれば、ナカミ空っぽの人間でも一夜にしてカリスマとして持ち上げる世間のあやうさ、オンナコドモの言い分を必要以上に尊重するのが正義であるかのような社会の欺瞞、リアリティTVの空恐ろしさ、「大人であること」を目指されなくなった幼児化社会のあほらしい現実、もっとも同情をかけられるべきは40~50歳代の中年男であるというまっとうな真実、などなど、描かれるすべてのことが、現代社会に対する痛烈な皮肉となっていて、ブラックな笑いが最後には凍りつく。読者は、「明日は我が身」となりかねないような不確かで恐ろしい不条理社会に実際に生きていることに、気づかされる。

映画化を希望。でも映画化の場合、結末をハッピーエンドにしないといまどきの観客は納得しないだろうな。この作者は、フィールグッドなハッピーエンドなど用意しないのだ。そんな世の中への媚びがないあたりにこそ、作者の骨太な気概を感じる。

◇谷川俊太郎さんの「1月の詩」、朝日新聞16日付夕刊。「うつろとからっぽ」の大きな違いを描いた詩が、とてもいい。最後の段落のみ引用。

「うつろとからっぽ

似ているようで違います

心という入れものは伸縮自在

空虚だったり空だったり

無だったり無限だったり」

できればいつも「はるばると地平線まで見渡せ」るように、からっぽにしておきたいものではあるが。

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