どこかに活字原稿でと思っていたけどタイミングを逸したので、こちらのほうに大雑把にメモだけしておくことにした(必要になった時に、詳しく参照しなおすことができる。紙片だけだと必ず大量の書類の間に紛れてわからなくなる。こういうときにウェブは便利だと思う)。不況にも関わらず時計産業が健闘しているという英「ガーディアン」の記事。昨年12月14日付け。

とりわけ急伸しているのが、ヨルグ・グレイ。(この話は「ダンディズム」の本にもちらっとだけ書いたのだが)もともとはアメリカのシークレット・サーヴィスのメンバーのためにデザインされていたヨルグ・グレイ6500クロノメーターを、バラク・オバマのSPが彼の誕生日にプレゼントしたことが、ブームのきっかけとなった。

オバマはこれをシカゴでの勝利スピーチの際にも、大統領就任の際にも、ロンドンのG20にも着用、知名度と人気は決定的になる。価格が手ごろということもあるが、多くの男は、大統領と同じ時計を身につけることで、「大統領と同じ<クラブ>メンバーに属している」という幻想を抱くことができるのだという。女がセレブリティ所有のバッグや靴と同じものを身につけて、「今だけケイトモス」気分になるのと、同じでしょうかね。

とりわけ男性の場合、スーツで盛装してしまうと、その人のパーソナリティとか同時代感覚とかステイタスなんかがわかる数少ないアイテムが、時計である。とりわけ今は大げさな車を乗り回すことが「アウト」に感じられる不況期なので、その分、時計に力が入るようになっているのだとか(時計は車と違ってCO2も出さないし)。

そこで時計産業のほうもこの状況を最大限に生かし、次の3点に力を注いできた。

1.最新のテクノロジーを駆使し、世界トップクラスのスポーツカー並みに、畏れ多いほどの複雑機能を搭載する。

2.絶えず、ニューモデルを紹介していく。

3.それを一般大衆に知らせるために、大量の広告費を注ぎ込む。

とはいえ、今はさすがに時計産業全体が落ち込んではいる。でもそれはバブル期のように派手なものを誇示的に買うという「ブル・マーケット」がなくなったためで、「インテリジェント」な買い方をする客の比重が上がっているという。知的に選べば、時計は資産価値を上げることもある。1930年代のパテック・フィリップなども、オークションで高価に売買されている。

資産価値ヌキにして、純粋に時計は喜びの源でもある。だが、着用する時計は、好むと好まざるとに関わらず、「あなた」を語ってしまう。それは価格とは無関係で、オバマ大統領のヨルグ・グレイとか、億万長者であるトッズの会長のスウォチのように、安価でも完璧にデザインされたものを選ぶことで、インテリジェンスを表現することもできる、と。

女のバッグや靴をチェックするのがおうおうにして同性の女であるように、男の時計をすばやくチェックするのも、男である。「相手は、どの<クラブ>に属しているのか?」(=どういう幻想に弱いのか?)というのを知るには、わかりやすいアイテムなのかもしれない。

個人的には、ブランドに詳しい(ことを表わす)態度に出会ってしまうと、ちょっと辟易するので(笑)、よほど相手に「見て見て~」と言われない限り、時計なんか見てないしよくわからない、という態度がオトナかな、とも感じる。

就任1周年で評価を下げているオバマ大統領だが、それでも、大統領は大統領。ヨルグ・グレイの「大統領の時計」幻想は今後も生きるのだろう。

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