中村うさぎ+マツコ・デラックス『うさぎとマツコの往復書簡』(毎日新聞社)。

「幸せを感じるかどうかは、自分の心次第」みたいな最近のゆる~い自己欺瞞ブームにきびしい冷や水を浴びせる。自分のエゴとぎりぎりに向き合って闘っている「異端者」ならではの赤裸々なことば。イタイ、として片づけるのはたぶん時流にあってるし、キライ、で無視するのもラクだけど、それだけでは終われないひっかかりが残る。

・うさぎ「買い物やらホストやらにハマっていた時期、私の毎日はほぼ地獄だったけど、その地獄の最中に天にも昇る恍惚感があった事も確かなの。天国って、地獄と対極の場所にあると思ってたけど、違ったわ。天国は、地獄の真ん中にあったのよ!」

「で、五十歳にしてようやく地獄から這い出たと思ったら、そこには天国なんかなくて、砂漠が広がってるだけだった。愕然としながら振り返ってみると、さっき命からがら抜け出してきた煮えたぎる地獄のマグマの真ん中に、キラキラと輝く天国があるのを見つけた」

地獄か、砂漠かの二者択一。チャーチルが「地獄を経験しているなら、そのまま突き進め」と言ったことを、ふと連想する。チャーチルも退屈が死ぬほどきらいだった人だ。

巻末の対談、「みんな違ってて、OK」「みんな平等」「それぞれが世界にひとつの花」みたいな現在の風潮に、疑問をつきつける。

・うさぎ「SMが象徴的だけど、どこか対等感を排除したところにエロティシズムというか秘密の花が咲くわけじゃない。エロってのは個人的、私的な部分だから、そこにまで対等とか平等とか他人が介入してくる社会はすごく気持ち悪い」

・うさぎ「『ゲイだ』『オカマだ』という差別はよくないけど、その差別と闘った原動力がゲイ文化を生んだと思う。今は普通に会社や学校でカミングアウトする人が増えて、周囲も受け入れて理想に近づいてはいるけど、カルチャーは衰退した。コンプレックスとか被害者意識ゆえに結束したパワーが毒々しい花を咲かせるっていうか、文化ってそういうものだと思う。『みんな違ってていい』というのは社会としては理想でも、文化としては沈んでいくんだろうなと思わざるを得ない」

苦いことばが、薬のようにじわっと回ってくる感じ。つるんとしたやさしいパステルカラーの幸福論に毒されている人にとっては、脳内バランスを正しく保つための良薬になりそう(ただし分量に注意)。

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