シーズンごとにクローゼットの中身を「処分」することがあたりまえになった時代に、「ファッション史」としての服の保存のされ方も変容しているという記事。英「ファイナンシャルタイムズ」、昨年末の12月30日付。
インターネットのオークションサイトにシーズン落ちの服がどんどん流出するうえ、ワンシーズン着たら捨てることを前提につくられている「ディスポーザブル・ファッション」の台頭で、未来において「歴史」となるはずのきちんとした服が手に入りにくくなっているとのこと。各コスチューム美術館の学芸員たちの嘆き。
女主人の服を、アクセサリー類とともに手入れ、保管する仕事をしていたメイドという存在が、もはや消滅してしまったことも、コスチュームの保存にとって打撃である、と。
また、クチュールの顧客が減少し、かつてのように「ひとりのデザイナーの服だけを着続ける女性」の存在もなくなってしまったことで、デザイナーの年代ごとのキャリアをたどることができるような服を集めることも困難になってしまった。
一方、雑誌のエディター、ケイティ・グランドやアンナ・デル・ルッソのように、時代の精神をすべて反映するような選び抜かれたワードローブを所有している人がいて、この種の人たちの服が「処分」されずに保管されることが希望の綱でもある。
とはいえ、このまま「服はシーズンに数回着たら、捨てるもの」という流れがあたりまえになっていけば、美術館に所蔵可能な服などほとんど存在しなくなってしまう。
「ヴィクトリア&アルバート美術館」は、すでにファストファッションとデザイナーのコラボ服を保管し始めている。ジル・サンダーがユニクロとコラボした「J+」のラインや、ジャイルズがニュールックとコラボした「ゴールド」など。ハイエンドの服を作っていたデザイナーが、マスマーケット向きにどのように適応したのかを知ることは、ファッション史にとってきわめて重要、と。これぞvox populi(民の声)がいかにデザイナーの現実を変えていったかという実例、というコメントがやや皮肉なトーンを帯びて聞こえる。
短期間に消費され捨てられるのを前提として作られる服が増える中で、いい服を作り続けている貴重な(収集に値する)デザイナーとして、ヴィンテージショップの店主らが以下のデザイナーを挙げている。
・LAのヴィンテージショップ「ディケイド」のオーナー: ロダルテとリック・オーウェンス
・クリスティーのディレクター: クリストファー・ケインとガレス・ピュー
・ファッション・イーストのディレクター: ロダルテ、ジョナサン・サーンダンス、リチャード・ニコル、ルイーズ・グレイ
・ケリー・テイラー・オークションズのオーナー: ヴィクター&ロルフ、クリストファー・ケイン、ニコラ・ゲスキエール、ミウッチャ・プラダ、ガレス・ピュー
デザイナーにしても、作品をコスチューム美術館に保管されて、将来にわたり「ファッション史に燦然と輝く作品をつくったデザイナー!」という位置づけを得たいだろうと思う。でも、大量消費・大量廃棄を望む「民の声」がそれを許さない。すぐに捨てることを前提としたぺらぺらの服を着ている人たちで埋め尽くされた都市の風景は、どこか殺伐として見える。
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