「ブルータス」2月1日号の特集「男の作法」にきらりと光る記事いくつかあり。なかでも村松友視の「スタイリッシュの値打ち」に描かれる野坂昭如像と吉行淳之介像が鮮やかに印象に残る。

野坂昭如さんは「逃げる」「遅れる」「騙す」の三種の神器を駆使する方で、原稿をとるのにいかに苦労したかという話があったあと、次のようなチャーミングな賛辞がつづく。

「往年の野坂担当が顔を揃えれば、俺の被害の方が大きかったいや俺の方がと、悲惨を競い合って言いつのり、あげくは野坂昭如大絶賛となるにちがいない。この屈折した贅沢な時間が、歳月を重ねるごとにふくらむのは、担当者全員が野坂さんという人間のファンだったゆえということになるだろう。

そして、このような荒事の四苦八苦の思い出の片方に、いつも浮かんでくるのが、野坂さんのお辞儀の実に美しい見事な姿なのだ。逃げて、騙して、遅れたあげくであっても、別れの際の野坂さんのきれいなお辞儀が残像として残る。これはもちろん担当者を手玉に取る芸ともなっているが、日ごろ隠し秘めている、野坂さんの本質的端正さのあらわれでもあるにちがいない。この両端があぶなっかしい均衡をとっている」

吉行さんの常套句、と紹介されるくだりにもしびれる。

「それは、やわらかい約束にしておこうか」

宙にういたままの厄介な約束が、ある日ある場所で、唐突に固い約束に変わる。仕事上の話であっても、その底流になんともセクシーな吉行スタイルを感じる。

とじこみ付録みたいについている「遊んで覚える男の作法かるた」も粋で楽しい。

「うち滅ぼせば、うち滅ぼされる。一点リードを守れ」

「こうしょうは厳しい時ほどウィットに富んだ話で切り抜ける」

「みつめ続けろ。その人のいいところが見えるまで」

「まけて笑うことができなければ、博打は打つな」

「よい越しのアイデアは持たず。一回ごとに全部出し切る」

などなど。かるたの裏をめくるとそのことばの由来になった人物とその関連本の紹介が書いてある。ちなみにここに引用したのは、上から、色川武大、吉田茂、木村伊兵衛、山口瞳、倉俣史朗。紹介されている本で、読んでいなかったものを全部注文したくなる衝動に駆られる。

遊び心いっぱいで、中身も濃い企画に拍手。

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