朝日新聞23日(土)朝刊、オピニオン欄。「いまこそ歌舞音曲」。悲嘆、自粛ムードが世を覆い、復興に向けて具体的に建設的に貢献しなくてはいけないというプレッシャーが押し寄せる中、たとえばファッションのような「浮薄な」(と思われている)領域で働く者は、どのような気持ちで仕事に取り組んだらよいのだろうか? と日々仕事をしながら自問していたが、この記事もまた考えるヒントを与えてくれた。

舞踏家の麿赤児さん、指揮者の松尾葉子さん、そして吉本興業の社長、大崎洋さんという、「踊り、音楽を奏で、笑わせる」ジャンルで働く人々の言葉。

麿「死や自然災害など、どうしようもないものに対する恐怖と折り合いをつけるために、宗教や芸術というものがある。ただ、宗教は価値観を固定化するけど、芸術は抽象的だから、むしろ価値観をどんどん多様にしてゆく」

麿「原発を見てると、太陽に向かって、ろうの翼で飛んでいくイカロスを思い出す。手にしてしまった便利さを手放せず、もっともっと、と破滅に至るまで欲望を肥大化させてゆく。これもまた、人間の業なのだろうが」。

原発=イカロス の喩えに膝を打つ。たしかに、いまの原発の状況は、破滅に向かおうとも、「もっともっと」と欲望をコントロールできない哀しい人間の業をあらわした図に見えてくる。

松尾「音符や言葉を介さず、音と自らの心を直接結ぶ回路を、子供たちは持っている。遠くの人を思いながら音楽を奏でる経験は、子供たちに、真の音楽の力を知ってもらう最高のきっかけになったはずなのに」

大崎「歌や笑いは、根底に愛情というか、人と人との心のつながりがないと成立しないんです。吉本興業の公共性は、芸能を通じて、この心のインフラを確保することにある。現実がどんなに荒れ狂っている時でも」。

芸能を通じた心のインフラ確保。なるほど。ファッションだって似たようなものかもしれない。「心のインフラ」というキーワードを少し心にとどめておくことにする。とはいえ、現実離れしたように見える世界の仕事をしながら、やはり少しばかり、揺れ続ける。

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