男性の靴の流行に変化が起こりつつある、の記事2本。まずは、イギリス。かつてタブーだった「町の中でブラウンシューズをはく」ことが、今はタブーでもなんでもなくなっているというお話。「インデペンデント」6月26日付。Brown shoe sales are soar as men jettison sartorial rules.  By Paul Bignell.

取材による証言(というほどでもないが)がいくつか紹介されている。かいつまんでメモ。

ジョン・ルイスのメンズ靴バイヤーの話。「昨年、ブラウンシューズの売り上げは15%上昇している」。

ハロッズのメンズウエア部門マネージャーの話。「男性のビジネスウエアは、カジュアル化がすすんでくるとともに、スタイルミックスの傾向が強くなってきました。プレッピールックが靴の選択に影響を与えています。退屈なのは嫌われます。ブラウンシューズは目立つので、男性のスタイルのアクセントになります」。

バートン(「AOKI」みたくいろんなところにチェーンストアがあるメンズショップ)は、高級靴店ロークと提携した。目的は、通常は高価な靴を、一般大衆向けに手の届く価格で届けること。バートンによれば、「ここ2シーズンほど、売り上げは確実に上昇している。とりわけ茶のブローグがもっとも人気」

記事によれば、男性が最初にブラウンシューズをはき始めたのは、60年ほど前。ケーリー・グラントやフレッド・アステアがグレーのトラウザーズに合わせてブラウンシューズをはいた頃。だが、1960年代に事情が変わる。ビジネスマンが制服としてシリアスな黒をはく。今では、ブラウン革命の最前線にジュード・ロウやロビー・ウィリアムズがいる。

若い世代は、上の世代や保守的なビジネスマンとの違いを示すために、ブラウンシューズをはく。このトレンドは進んでいて、止まる気配はない。

1879年創業のクロケット・ジョーンズといった伝統的なシューメーカーでも、茶色の靴の売り上げは上昇している。「応用範囲が広くて、使いやすく、快適だからね」とマネージング・ディレクターの話。

さてもう一つの記事は、アメリカ。室内ばき(というか、夜の正装用)であるはずのヴェルヴェット・スリッパーが、外ではかれはじめている、というお話。「ウォール・ストリート・ジャーナル」6月23日付。How Going Outside in Slippers Became Cool.  By Ray A Smith. 動画版もあり。

http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304791204576401741575390086.html#articleTabs%3Dvideo 

ヒュー・ヘフナー(「プレイボーイ」の創刊者)風にイブニング・スリッパーをはく。しかもストリートで、ソール厚めにして、クロップトパンツやジーンズやスーツと合わせて。

スタッブズ&ウットンでは、若い世代の需要が高まったためにヴェルヴェット・スリッパーの売り上げが40%上昇した。コレ↓が、Stubbs & Woottonの今どきヴェルヴェット・スリッパー。

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ブルックス・ブラザーズのメンズファッションデザインのディレクターの話。「金糸でBBのモノグラムを刺繍した型を含むヴェルヴェット・スリッパーは、最近、たいへんよく売れている」。

6月初めのNYで、CFDAの授賞式にあらわれたカニエ・ウエストは、ジーンズにあわせてスリッパーを着用。

スリッパーは紐なしではけるという点で、エスパドリーユと似ている。2012年SSのコレクションでは、多くのモデルやゲストがトラウザーズをロールアップし、足首を見せて靴下ナシだった。こういうスタイルには、スリップオンシューズが必要で、その点でもこれがウケているのではないか?と。

以下は中野による勝手なつぶやき。

ヴェルヴェットなので雨が降ったらはけないみたいだし、だれもがヒュー・ヘフナーみたく「スタイル」として貫けるわけじゃないから、一時のファッドだと思うが。それよりも、この形のフットウエアって「スリッパー」というよりもむしろ「ローファー」と総称されるもんだと思い込んでいたので、呼称にやや意外感あり。

茶系靴をあえてはく男たちのメンタリティに、「上の世代との違いを示すために」というのがある、という点は納得。装飾&草食系男子に、上の世代への抵抗すらなくなっていたら、憂うべきことだ。

「足首見せ」がじわじわと広がっているのか? 上の記事にも言及されてるが、ファッションシーンに登場するような男はみんなソックスレスだったりするし、男子大学生もほぼ全員といっていいほど、ロールアップやショートのボトムに足首見せである。大学生がやるぶんにはかわいいけど、あの「エルメス」までスーツに足首見せを提案しているのがちょっと引っかかった。(同WSJの別の記事、ストリートからオフィスまで足首見せがくる、の報。左中ぐらいの男性の写真を拡大クリックして足元に注目)

http://online.wsj.com/article/SB10001424052702304314404576414311300500124.html

クリストフ・ルメールによるエルメス、2011-12秋冬。靴もご丁寧に茶系だし。

こうなると、脛を見せないためにホウズをはこう、なんてコンサバティブな提案が空回りしてしまう気もするんですが……(笑)。

モードはあくまでモードであって、いわゆる一般の男性が着るような仕事服としてのスーツとは無縁のもの、という意見もあるのだが、まったく影響を及ぼさないかといえば、そうとも言えないのではないか。あのエディ・スリマンのスリムスーツの影響が、10年たって量販店のスーツを変えたように、このトレンドだってどう化けるか、誰にも断言できない。

2 返信
  1. らみい
    らみい says:

    中野さん、スリッパーも足首見せも、断固反対です。
    特にスーツには有り得ないと思います。
    マイノリティになっても、私はやりません。
    ところで、茶の靴、やはりカジュアルなのでしょうか?
    私の革靴のほとんどは、ダークオークの茶靴です。
    特に茶系のスーツに、黒の靴は何か物足りない気がします。
    ネイヴィーやグレー系のスーツに合わせても、黒より柔らかい感じがするとおもうのですが。
    アカデミックな展開でなく失礼しました。

    返信
  2. kaori
    kaori says:

    >らみいさん
    実はこの話題をFBでも紹介したところ、さまざまな立場からの多彩なコメントを予想外にたくさんいただき、靴問題に対する男性の関心の高さを、あらためて実感しているところです…。
    日本では明治の初めに洋服大評定があって服制改革がおこなわれ、洋装が採用されたのですが、そのときには、時間やオケージョンに応じて着分ける、という発想まで入ってこなかったようなのです。日本のビジネスシーンにはフォーマルとカジュアルの線引きが、それほど厳密ではないようだ、と指摘する方もいらっしゃいますが、どうも明治初期のそのような曖昧さというか「TPO概念の欠如」を引きずっているのかもしれません。
    洋服世界ではフォーマルシーンでは基本的に黒、とされてはおります。とくにイギリスの保守層では「茶はカントリーで着用する色」という考え方が根強くあるようです。
    とはいえ、これも時代に応じて変わりつつあって、ロンドンの若い人たちが、保守的な発想に抵抗する姿勢を表明するために、あえてブラウンをはく、という流れがこれからどうなるか。わかってやってるから、かっこよく見えるし、また、靴の売り手としても、一足でも多く靴を売るためにそういう若いリーダー層を利用しているところもあるでしょう。
    日本では、雑誌の影響力のもと、イタリアの服飾関係者を模倣する流行も入ってきて日本独特の洋服文化が形成されており、そのなかにおいては、ダークブラウンなども違和感なく日本のビジネスシーンにおさまっています。
    モードとは無縁であることが紳士世界では一目おかれるとはいえ、モードの影響力を完全に遮断することも不可能に思われます。
    歯切れが悪くてごめんなさい。服装のルールなど時代に応じて刻々と変わっていきます。いずれにせよ、着る人がその人なりの考えを持って堂々とはくこと、これが一番大切なことかと思います(って、これが一番難しかったりするんですが……)。

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