7月13日(水)に行われた、シャネル(株)代表取締役社長、リシャール・コラス氏の特別講演。明治大学商学部主催のファッション・ビジネス特別講演シリーズ、前期の最終回である。

リシャール・コラス氏の今回の講演のテーマは、LUXEのプレイヤー(コラス氏はactorという言葉を使っていらしたが)。ブランドのトップによって戦略が変わるということを、具体的なラグジュアリーブランドの例を引き合いに出しながら、お話いただいた。個人的にはツボにどまんなかというか、大好きすぎるほどの話だったので、わくわくしながら拝聴。「事実」やデータの裏にある、さまざまな人間くさいお話は、やはり「プレイヤー」のひとりでなくては語れない内容。ジョークを交えてのとても楽しい90分で、時にげらげら笑いながら、あっという間に時間がきてしまった。以下、とりわけ印象に残ったお話の概要を、ランダムにメモ。

・Boom, Consolidation, Expand, Crisis ときて、ラグジュアリービジネスの今はReboundの時期。

・リーマンショック後のラグジュアリービジネスの動向。アメリカは回復が早く、すでに「健康的」な数値を見せている、ということに軽く衝撃を受ける。2010年は日本以外は成長していて、なかでも最大の伸び率を見せているのが中国であり、なんと30%増。日本だけがマイナス10%という「非健康的」な伸び率。要因は2つ。まずは、日本はすでにマチュア・マーケットになってしまっており、おじいさん、おばあさんの世代は富のシンボルとしてラグジュアリー製品を購入したが、豊かになった日本の若い世代はもはやラグジュアリー製品を買う必要を感じていない。その2。観光客を呼べなくなった。これまでは中国人が来るときだけ売れたということがあったが(日本での売り上げの20%が中国人観光客によるもの)、これがなくなった。ただし、観光客を呼ぶためのインフラをどんどん作れば、第2のブームがくる可能性はある。

・ラグジュアリー市場は全世界で20兆円。かなり巨大なマーケットである(スイス、マレーシア、エジプトの国全体より大)。ちなみに日本は436.7兆円。

・キープレイヤーであるLVMH、PPR、リシュモンなどの、それぞれの歴史と市場規模、店舗数、売上高なども、数値をすべて示して教えていただいた。なかでもトップの考え方がわかるエピソードが印象に残る。たとえばLVMHのベルナール・アルノー。彼はアメリカで不動産業などにも携わっていたのだが、ブランドビジネスの重要性に気づいた。気づかせてくれたのが、NYのタクシーの運転手。「NYのタクシーの運転手は、フランス大統領の名前を知らないのに、クリスチャン・ディオールを知っている」。で、アルノーはクリスチャン・ディオールの買収にも成功している。

・エピソードの続き。リシュモン・グループのカルティエ。70年代にペランが、「マスト・ドウ・カルティエ」(豊かになる人は、これを持たねばならない、としてカルティエ製品を位置づけ)を提案して以来、急激に伸びる。ぺランは、ラグジュアリーのなかにマーケティングを持ち込んだ最初の人。これ以来、ラグジュアリーは大衆的になっていく。ちなみにぺランはただのセールスマンだった。

・グッチの場合。オーナーのパワーによってブランドの元気が左右されている、もっとも顕著な例。

・ラルフ・ローレン。ローレンはWASPではないが、WASPのコードを引っ張って大衆に夢をもたせることで、ファッションブランドを成功させた。日本では西武百貨店と組んでライセンスビジネスもおこなっているが、本家ものも同時進行。ライセンスがあってもイメージダウンせず、ライセンスと本物を共存させ成功させている、唯一の例。

・ブランドのオーナーが変われば戦略も変わり、元気になったりそうでなくなったりする。上場すれば、3か月ごとに株主の前で報告しなくてはならないので、いやでも短期的戦略をもたざるをえない。短期的戦略をとれば、ブレることが多い。軸がブレると力が落ち、そこをついてニセモノもふえてくる。

・シャネル社は上場していないプライベートカンパニー。非上場のため、売上高なども公開していない。だからこそ、ブレない戦略をとることも可能。

・ブランドにとってのデザイナーとはどのような位置づけなのか? (これは学生の質問に答えての話)  ブランドに雇用されるデザイナーには、ブランドのエスプリ把握とデザイナーのセンス、両方が求められる。デザイナーが交代するのは、往々にして、ブランドのエッセンスをつかみきれていないとき。ブランドのエッセンスのなかに自分のパワーを入れているデザイナーが、成功する。カール・ラガーフェルドはそのよい例。ココ・シャネルの名言のひとつに、Fashion Fades, Only Style Remains. というのがあるが、「スタイル」というのがほかならぬブランドのエッセンス。かといって移り変わる「ファッション」も不可欠。移り変わるファッションと、根っこの部分にあるスタイル、ブランドにはこの両方が必要なのだ。根っこ、すなわち伝統と歴史さえあれば、ブランドは死なず、またいくらでも元気になりうる。ブランドは何度でも復活できるのだ。その点で人間と同じである。

などなど、興味は尽きなかった。ブランドとは、とても人間くさいもので、またブランドの成長過程は人間の成長にもなぞらえることができるものだということまで、教えていただいた。コラス先生、および招聘してくださった商学部に心より感謝します。

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