コリン・ジョイスの『「イギリス社会」入門 日本人に伝えたい本当の英国』(NHK出版新書)。以前の2冊で大ファンになり、新刊が出てすぐに買っておいたのだが、読了してしまうのがなんだかもったいなくてとっておいた(笑)。

やはりこの人の感覚はいいなあ。教条主義的なところはかけらもなく、ちょっと斜め後ろから、冷静に詳細に、人や社会を観察して、みんなが見ていながらはっきりと意識しなかったようなことを、すっと俎上に載せてくれる。ちょこっとユーモアのスパイスを添えて。

この本も、例によって高い観察力とまっとうなヒューマニティが駆使され、インテレクチュアルに、ユーモラスに、血の通った今のイギリスの姿を教えてくれる。

90年代のクールブリタニカのブームの描写も、とてもシブい。

「そのころ、ふつうならイギリスにはつけられないはずの形容詞がずっと聞こえていた。『モダンな』『ダイナミックな』『前進する』『革新的な』。イギリスは『リブランド(ブランド再生)』の真っ最中だという触れ込みを、さんざん聞かされた。

イギリスの著名なジャーナリストがこんなことを言っている。何かの事象に語る価値があるかどうかを知りたければ、その逆のことを言ってみて、ばかばかしく聞こえないかどうか確かめるといい。そのころイギリスに関して言われていたことについて、ぼくはこれを試してみた。『イギリスは遅れた国であり、活気が感じられず、二流国であることに甘んじ、独創的な考え方ができない』

(中略)ぼくは『ニュー・ブリテン』というコンセプト自体に疑いの目を向け始めた」

イギリスの話ではあるのだが、日本においてもあてはめうる議論もちりばめられている。たとえば19世紀に活躍した政治家、グラッドストーンについての記述。

「グラッドストーンはイギリス政治で重要であるべき原則を体現していたと思う。たとえばリーダーシップ(政治的な見返りは小さくても、価値ある原理原則を守ること)であり、健全な国家財政であり、外国との平和な関係である」

サウンドバイト(短くてキャッチーなフレーズ)を重視する政治戦についての揶揄も、どこの国にもあてはまりそう。

細かな情報がいちいちメモしたくなるほど興味深いが、それ以上にやはり、読後、「まっとうな感覚」の友人と会話を楽しんだような心地よさが得られるのがいい。

訳者が前の2冊から代わって、森田浩之さんになっている。前の谷岡健彦さんの訳もすばらしかったが、森田さんの訳もナチュラルにこなれていて、読みやすい。

3・11後の日本がコリンの目からどう見えるのか、聞いてみたい。

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