グレン・グールドについてあまりにも素人以下のズレたことを書いていたら、愚行を見かねたFB友のナガサキくんが、「理解の補助線になるから読め」と、頭の良い人にしか書けないようなグールド評を二つ、教えてくれたのであった。

ほんとはこれ以上、素人がこの領域にふみこまないほうが賢いんだろうけど、そこは愚行ついで。投げ入れられた「補助線」をお借りして、もうちょっとだけ浸ってみる。

音楽に関しては「ど」素人として楽しむだけの私にとって、グールドがなぜ関心の対象となってしまうかというと、奇行としてくくられる彼のアティテュードの意味が面白いのである。天才的な演奏家であることは、素人にもわかる。だが、数々の奇行とあの美男風ルックスがなかったらこれほど伝説的に語られるのだろうか?これほど幅広く愛されるのだろうか?  演奏は演奏として、外見と切り離して純粋に評価されるものだろうか??? 正統派のファンの方にはご不快であろうから、この項目、スルーしていただきたい。ズレは承知のうえ、個人的な素朴な関心で、ちょっと追ってみる。

こういうことを考えてしまうのも、ファッション(史)において、作品とそのデザイナーのルックスや態度は、切り離して考えることが不可分になっているから。いやもちろん、作品は作品だけで純粋に評価されている場合も多い。だが、それが時代を超えて、ジャンルを超えて多くの人々に知られ、愛されるレジェンドとなるとき、作者自身のアティテュードの印象が、作品のイメージに多大な影響を与えているのだ。

ココ・シャネル、イブ・サンローラン、アルマーニ、ヴィヴィアン・ウエストウッド、トム・フォード、エディ・スリマン、そしてジョン・ガリアーノ。彼らの作品を語るとき、デザイナー自身の、あの強烈な個性を抜きにして十全に語ることなどはたしてできるだろうか? ムリ。

というわけで、関心の対象は、作品とデザイナーのアティチュード、ならぬ演奏とピアニストのアティテュード。そしてもうひとつ、感覚に訴えてくるすごいものに、どうやって言葉で接近するか?という永遠の課題。

前置きがくどかった。送っていただいた論評はふたつ。吉田秀和のグールド賛と、ヨーアヒム・カイザー著「現代の名ピアニスト」からの「グレン・グールドとフリードリヒ・グルダ」。まずは吉田秀和の「世界のピアニスト」からのグールド賛。鋭いと感じた表現を引用させていただきます。

[E:note]この音楽には、おそらく天才の純潔とでも呼ぶほかはないようなものが息づいている。彼の奇矯はそのために生まれ、彼の細やかさは、その純潔の徴し(あかし)以外の何物でもないのだろう。

[E:note]彼のレコードをきいている時、私は、ある時は必死になって、その音をおいかけ、できる限りの力でもって、<この>音楽について、また<音楽>について、考えようとする。私は、そのために音におぼれず、音に酔わず、自分をできる限り透徹した意識で目ざめた状態においたまま、考えようとする。ところが、そういう努力をしているその時間こそ、音楽が終わってふりかえってみると、私は一番深く音に酔い、音に没頭し、音楽に憑かれていたのである。グレン・グールドの演奏は、そういう性質をもっている。彼は私たちをたえず目覚まし続けることによって、私たちを音楽で酔わす。(中略)ここでの彼は、手垢のつかないロマン主義の小妖精のようだ。

[E:note]グールドがバッハをひくのをきいていると、この「反応と即時性といろいろなタッチの微妙な決定の調節」がものすごく鋭敏に、しかも、際立って高度の知能的な態度(インテレクチュアリティ)と技術の水準と緻密な音楽性(フィーリング)とがからみあいながら、演奏の進展するさまがよくわかる。それに一面では極度にスリリングな魅力の源泉になっているが、一面では聴後の全体の印象を統制のとれたものにする原因ともなる。

[E:note]そういった全体がまるで苔の庭のような一分の隙もない緻密で濃密な音の敷物を作り上げるのだが、しかもその表面の艶々した瑞々しさと、その下を絶えず生きて流れている抒情の味わいの気韻の高さ。

[E:note]この天才にとり憑いた魔霊(デーモン)が<誇張のデーモン>と背中合わせに生存しているのかと思わせるものがある。しかしこの記念すべき処女録音では、知性とデモーニッシュな魔力とは―いかにもバッハの音楽にふさわしく―黄金の均衡を保っている。

天才の純潔。ロマン主義の小妖精。苔庭の艶やかな瑞々しさと抒情。知性とデモーニッシュな魔力の黄金の均衡。

かくも美しいことばの数々のほうに、覚醒しながら酔ってしまう(笑)。さてもうひとつ、ヨーアヒム・カイザーの方は、長くなるのであらためて次のエントリーで。

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