夏のブランメル倶楽部のイベントで、お仕事をご一緒したテイラー、鈴木健次郎さんのミニトークショウつき受注会@銀座和光。

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日本にパリのテイラー文化を伝えたい、という熱い志のもと、少しずつ仕事の重点を日本へ移していきたいとのこと。

いつもながら感心するのだが、鈴木さんの、自分のヴィジョンを伝える表現力というのはとても高い。「黙っててもわかるだろう」なんて甘いことが通用しない異国で鍛えられたのか、あるいは元々表現力が豊かであったのか、いずれにせよ、メッセージがブレず正確に、しかも熱を帯びて、きちんと伝わってくる。

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以下、かなりランダムだが、彼の話の中からなるほど、と感じた点。

・フランスは階級社会であるから、日本のように「好きだから」語るとか、「好きだから」こんな服を買う、という発想があまりない。語るスポーツひとつとっても、階級によって異なる。当然、階級によって、作るスーツも違う。

・パリのスタイルといっても、フランスのテイラリング産業を支えている多くの人々は、外国人移住者であったりする。異なる宗教観、文化をもつ外国人が、自分のフィルターを通して、フレンチスタイルを形づくっている。そこが面白いところでもある。彼ら職人は「世界でいちばん美しいものが集まるのはパリ」という信念をもっており、自分にしかできない美しい物を作ろうとすることに、職人としての誇りをもっている。

・パリの上流階級のエレガンスのエッセンスは、「ディスクレ」(英語でいう、discreet、控えめな部分における美しさ)にある。教育、支払い方、チップの渡し方、すべてにおいて「ディスクレ」な態度が貫かれている。服においてもそうで、誇張されたスタイルはよしとされない。部分的な意匠で驚かせたりはしない。その服はどこの?と聞かれるのは、野暮の極み。着る人自身がエレガントに魅力的に見えるカッティングこそが、最重要事項として求められる。このあたりの美意識は、日本人にも通じるところがあるはず。

・自分が作るスーツにおいては、空気感を重視している。日本人の体型にぴたりと合わせてスーツを作ると、マッチ棒のようになってしまいがち。それでは美しくないので、立体感や奥行きを重視し、前面に空気の層を二重、三重に入れる。そうすることで、動作やしぐさに服がついてくる。日本の「着物をまとう」感覚と同じ。空気の層でゆとりがあっても、ウエストをシェイプしているので、ぶかぶかに見えることはない。

・フランスの顧客はテイラーに3度のチャンスを与える。一度目は、「体に合った」服。二度目は、その人の動作や癖や着心地やポケットに入れるものの習慣などに応じてゆとりを考慮した服。三度目はテイラーの美意識の反映も許すような服。三度の「テスト」にパスすれば、「レッセフェール」、あとは信頼して任せてもらえる。

・あと5年から10年足らずで、パリからテイラーはいなくなる。パリにはすばらしいテイラリングの伝統があり、何年もかけてレベルを上げてきたはずなのに、肝心のパリのテイラーがそれを次代へ伝えていこうとしない。その点が「継承」重視のアングロサクソンと違う点で、残念なところである。せっかくパリで修業を積んだ自分は、そのような貴重なパリのテイラリング文化をなんとしても日本へと伝えたい。その使命感をもって仕事をしていく。

テイラリングは文化を背負う。そして誰かがそれを、明確な言葉とそれを具現化する作品を通して伝えていかねばならない。孤独でハードルの高い仕事を辛抱強くやろうとしている鈴木さんは、仕事への向き合い方においても、多くのインスピレーションを与えてくれる。

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4 返信
  1. kaori
    kaori says:

    >麻友子さん
    コシノジュンコさんも朝日新聞で言ってましたが、日本人の美意識の発信は、まさに「これから」という気もしています。
    そのためには「黙っててもわかるだろう」から一歩飛び出て、表現力も必要になるのかな。創る人と発信する人は別であってもいいけど、とにかく正確に発信していくことで、日本に対する見え方も変わってくるのではと思います。

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  2. かいしん
    かいしん says:

     まず最初に…、まことに勝手ながら、今回より「中野さん」と呼ばせていただきますが、どうかお許しください。美しいお名前ですので、本当は「香織さん」と呼ばせていただきたいところですが…、さすがに失礼かと存じますので…。そして、是非、私のことも「さま」ではなく「さん」を付けて呼んでいただきますよう、お願い申し上げます。
     神戸ブランメル倶楽部の公式サイトで、鈴木健次郎さんのコラムや中野さんが司会進行をなさったオープンインタビューの様子などを拝見しておりますので、今回のミニトークショーにも興味を持ちましたが、京都在住の私にはやはり遠く、参加することは叶いませんでした。このような形で、お話の要点を拝読でき、うれしく存じます。ありがとうございます。
     さて、「自由と平等の中に歴然と存在する階級社会」でも書いていらっしゃる階級ですが、文化の形成には役立っているのかも知れません。もちろん階級社会を肯定するわけではありませんが、存在することによって、その階級に属する人間は、必要な知識、流儀や作法などを、代々伝え、あるいは積極的に学び、当然のように身に付けているという側面もあるかと存じます。
     我が国、日本では、古来の文化は薄れつつあり、海外、特に欧州からは表層の物事だけを輸入し、新しいものは目まぐるしくて文化が追いつかない、…と残念ながら、文化を伴っていないものや誤っているものが少なからずあるように感じます。
     階級のない、真に平等で自由な世界であっても、表層の物事だけではなく、その背後に存在する流儀や作法、思想や哲学などの正しい文化を伴って欲しいものです。日本人に洋装の正しい文化を広く深く浸透させるということで、その一翼を担っていらっしゃる中野さんの、さらなるご活躍を願っております。

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  3. kaori
    kaori says:

    >かいしんさん
    仕事関係者はふつうに「香織さん(ちゃん)」呼ばわりですので、別に失礼でもなんでもありませんよ。苗字でも名前でもどちらでも。
    たしかに、日本に流通している西洋文化は、独特の発展を遂げていますね。背景の思想なしに、表面だけ、日本流の解釈でとりいれられ、不思議な和洋折衷ができあがっていることが多い。
    それはそれで、面白い物、日本にしか見出せないもの、を生み出すという意味ではいいこともありますが(笑)。
    背景の文化は知っておくにこしたことはないですよね。それを知ったうえでオリジナルな発展を遂げればよいと思っています。
    (猿まねをする必要もないけど、あまりに知らな過ぎるのも厚かましい)。
    そのあたり、西洋かぶれっぽくならず、日本人の誇りも尊重しながら伝えるというのは、自分自身のセンスが問われることでもあり、難しいですけれど、まあ、楽しみながら細々とやっていければと思っています。

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