Signature 12月号、葉山孝太郎さんの連載「スパークリングなスクリーン」、第8回。甘くて不条理な身分違いのロマンスの話(『サブリナ』リメイク版、シドニー・ポラック監督)を、登場するクリュッグのシャンパーニュにからめて。

クリュッグの位置づけ、クリュッグの描写がうまい。描写が難しいお酒だが、ああ、こう書くのか。「クリュッグは、シャンパーニュの中で最も高価で、マニアっぽく、男臭い。日本の俳優でいえば、三船敏郎的な存在だろう。フル・ボディで、シェリー酒のような酸化した風味がある。好き嫌いがはっきり分かれるというより、クリュッグ側が飲み手を選ぶのだ」

『エリゼ宮の食卓』(新潮文庫)に書かれている情報として、こんな紹介もある。エリゼ宮で海外のVIPを招いて大統領主催の晩餐会を開くときには、相手によってワインの銘柄を露骨に変える、と。「昭和天皇がエリゼ宮に招かれたとき、敬意を払ってドン・ペリニヨンが出たが、短命内閣に終わると世界中が予想した羽田首相が渡仏した際、名もない南仏のワインを出し、『何の期待もしていない』とのメッセージを送った。このエリゼ宮で最高ランクのワインがクリュッグだ。クリュッグは、フランスの最重要国、イギリスのエリザベス女王が国賓待遇で来るときなど、特別の要人にしかサービングされない」

で、クルッグしか飲まない伊達者を「クリュギスト」と呼ぶそうだ。エリザベス2世にココ・シャネル。

映画の結末と、フランスにおけるこのシャンパーニュの位置づけのからませ方が知的で、酔える。「自由と平等の中に歴然と存在する階級社会。その中で階級を超えたロマンスが実を結び、クリュッグを飲んで様になる風格を備える。これが究極の『自由と平等』かもしれない」

(ちなみに、ヘップバーン版「サブリナ」では、モエ・シャンドンだったとのこと)

昨日の健次郎氏の話にもあったけど、そうそう、「階級社会」であることが歴然としているコワイ国、フランスは、建前上は「自由と平等」の国なのだった。こういうややこしいところで、究極の自由と平等を手に入れるには、相当な<ドラマ>が必要なんですね…。

クリュッグを飲んでサマになる風格。これを備えてクリュギストに名を連ねられたら、それこそお酒好きにとっては最高の栄誉だろう。

その前に、「グラスを2個ポケットに入れ、未開封のクリュッグを1本もってパーティを抜け出す」、そんなシーンに巻き込まれてみたいもの(笑)。

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