電子書籍仕上げに集中で、今週の平日は結局、一度も電車に乗ることなくワンマイル圏内で過ごしてしまった。煮詰まったときに気分転換に読んで癒された本。宮本輝さん『真夜中の手紙』(新潮社)。

ご自身のウェブサイトBar Teru’s Club で、寝る前に、ファンに向けて話しかけるようにさらっと書いたツイッターみたいな文の集積なのだが。だからこそ、ストーリーラインを追わず、開いたところから「1分」とか「5分」単位で楽しめるようになっている。自分がこういう状況のとき(ほかのことに長い時間をとられてはいけないとき)には、このくらい脱力した感じがちょうどよい。逆に、きちんと本に向き合いたいときには、「薄い…」と感じるだろうな。

脱力してても、さすがベテランの小説家で、ぴりっと「らしい」ところが時々ある。とくに心にキタところを紹介させていただくと。

「春は少しずつやって来るのではありません。ある日、いっせいに春になるのです。世の中も同じです。少しずつ変わっていくのではありません。あるとき、怒涛のように変化するのです。病気が治っていくのも同じです。薄紙をはぐように、という場合もありますが、治るときが来たら、一気によくなります。これは真実です。商売も同じです」

「ジャック・ニクラウスにも『わたしはメソッドというものを信じたことはいちどもない』という言葉があります。駄目なレッスンプロというのは、このメソッドばかり教えようとするんですね。Method 一定の方式とか方法という意味ですが、万人にあてはまるメソッドなんてないのです。しかし、これだけは厳守しなければならない正しい基本というのはあります。

いまはゴルフにかぎらず、あらゆる分野で、正しい基本を教えられる人が少なくなってしまったので若者が育たないのです。

どうしたら小説家になれるかと質問する人がいます。それは方法を知りたがっているのです。小説家になりたかったら小説を書くしかない。これが基本です」

(『夜明け前』の文章を評して)「この文章のどこに難解な言い回しがあるか。どこに美文でございという臭みがあるか。どうでもいいようなメタファやレトリックが一箇所でもあるか。そんなものはなにひとつない正確無比な文章なのです」

というわけで、臭みやレトリックを極力そぎ落として「正確」をめざそうとすると、なかなか作業が終わらないのだな。シンプルで正確で相手の心に過不足なく届く。カンタンそうに見えるのだが、案外、難しい。文章においての話だけど、たぶん、装いなんかにおいても。

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