芥川賞受賞作を読みたいと思って買ってみたが、むしろ断然、面白かったのが、「テレビの伝説 長寿番組の秘密」。なんであれ、長続きするって偉大なことだが、その秘密が納得できるような言葉の数々。

・紅白最多出場の北島三郎が語る「オレと紅白と美空ひばりさん」より。「紅白の舞台に限らず、キャバレーで歌っても、ステージの向こうに歌を聴いている人はいる。そこに届けようと思って歌えば、メシを食う手をとめて、聴いてくれるんです。それが、プロの仕事ですよ。そういう思いで自分に鞭打ちながら、今日までやってきた」

・立川志の輔「『ためしてガッテン』は六か月かけて一本つくる」より。「(立川談志師匠のコメントとして)科学的に言ったら、酒も煙草も体に悪いに決まっているけど、そうはいってもやめられない人間の業を肯定していくのが落語なんだよ、おまえは『酒も飲まず、煙草も喫わず、百まで生きたバカがいた』といい放つ側にいろ、と」。その結果、癌になる確率を減らすテーマを取り上げた回でしめくくりに色紙に書いた一言が、「癌は運である」。

・萩本欽一「僕が泣いた『仮装大賞』名作選」より。「笑いの方程式は、『振りは静かにまっすぐと』なんです」「(二郎さんの晩年の舞台を見ていて)名人芸の上に仙人芸があると思った」

・堺正章「『チューボーですよ』の食材はゲストです」より。「(60代になったときにどうなっていたいかと考えた時に)そこで覚えたのが『捨てる芸』です。ツッコミたくても割り込みたくても、ここは言わないでおこう、とスタジオにどんどん捨てていくんです。昔は全部言わなければ気がすまなかったけど、この年齢になると、それでは必ずしも得をしない。あえて前に出ず、後で、『ああ、あそこは捨ててよかったな』と思える捨て方を覚えたことは、僕にとって大きな財産です」

・草野仁が黒柳徹子の『ふしぎ発見!』」より。「(黒柳)これまで蓄積してきた自分の知識のレベルを考えてみたら、音楽、芝居、パンダ、ユニセフなど一生懸命やってきた分野に関しては自信があるけれど、スポーツ、科学、歴史などに関しては惨憺たる知識しか持っていないと気づいて愕然とした。だから、出演をきっかけに少し腰を据えて、歴史と地理を勉強してみようと思います。一週間前でかまわないので、『古代ヨーロッパ』とか『開拓時代のアメリカ』とか、大まかなテーマを教えてください。それについての本を読んでからクイズにチャレンジしたいんです」……で、毎回平均して5冊は読んで予習していらっしゃるとのこと!

・樋口毅宏「30周年『笑っていいとも』タモリの虚無」より。「(四半世紀、お昼の生放送の司会を務めれば)まともな人ならとっくにノイローゼになっているよ。タモリが狂わないのは、自分にも他人にも何一つ期待をしていないから。そんな絶望大王」……。「たけしやダウンタウン松本が時に刃物をチラつかせて、誰からも恐れられる『自らをコントロールできる狂人』だとしたら、タモリは一見、その強さや凄さが伝わりにくい、まるで武道の達人のようです」。「(あるときテレフォンショッキングッキングのコーナーに突然、男が乱入)しかしタモリは慌てず騒がず、『何、言いたいことがある?』と返し、やりとりをしている間に男はスタッフに取り押さえられました。観覧していた客は目の前の光景が信じられず、しばらくざわついていたが、タモリはケラケラと笑っていた」(!)。

思いや喜びを届けたいというサービス精神やプロ根性、尋常ならざる努力や強運に加え、捨てる芸を覚えて絶望大王として構えていれば、仙人の域に達していることもある。強引なまとめでスミマセン。

0 返信

返信を残す

Want to join the discussion?
Feel free to contribute!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です