移動中と待ち時間に読み終えた本。樋口毅宏『民宿雪国』(祥伝社)。

荒唐無稽な生涯を生きた人物のウラオモテの描き方と、限界越えした凄惨な修羅場の描写がすばらしくうまい。ぜったいに映像化なんかできないほど、これでもかとサディスティックに攻めてくる。ハートにくるというよりもむしろ、カラダにくる。脳内のなにかがぱちぱちはじけて血管がじんわり広がるような身体感覚となって、ダイレクトにくる。

(くどいけど、受けつけない人には受けつけないので、万人にはお勧めしない)

インチキアートがまことしやかにプロデュースされ、価格をつりあげブンカ的な価値を帯びていく過程の皮肉に満ちた描写なんてとくに快感。

「字に勢いがあるだけの書道家の駆け出しがいた。やさ男で、この世界では二の線に見えなくもなかったので、頭を金髪に染めさせて専属のスタイリストをつけさせ、わざと生意気な発言をさせた。『既成の枠には縛られない、書道界のニュージェネレーション』と持て囃され、数多の女性ファンを獲得したが、その八割近くは五十過ぎの御婦人だった。彼の作品とグラビアを織り交ぜた写真集はベストセラーになった」

などなどいかにも身の回りの現実に起こっていそうなインチキを次々と暴いて見せてくれる手腕に、ブラックに笑わされる。

夢のような美しい世界にひたる合間に、悪夢のようなこれでもかの世界にふける。この両極端、どっちも好き。なんかそうやって無意識のうちにバランスをとってるのだろうか。どちらも現実逃避といえば逃避なんだろうか。

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