同じ人間界の話とは思えないほどかけ離れた世界の話だったが、面白すぎて一気読み。超富裕層のお話。


ロバート・フランク著「ザ・ニューリッチ」。リッチスタン(富裕層の国)のお話。2007年の本だから、今は昔…な話も多々あろうかと思うのだが。それでも、アメリカの新富裕層の実態が赤裸々に描かれており、興味がつきなかった。執事、起業、慈善、パーティー、ヨット、ジェット機、スパ、城、屋敷内ゴルフコース、デスティネーション・クラブ、美術品…。

以下、とくに面白いと思った引用&概要など、備忘録。

・現在の執事は、「ハウスホールド・マネージャー」

・富裕層が安心できる金額はほぼ常に、現在の純資産額あるいは所得の約二倍。

・有閑階級は一変しつつある。暇なお金持ちに代わって、仕事中毒の富裕層が登場している。

・富は人間の最低の部分も、最良の部分も引き出す。つまり、富は人間性を誇張するのだ。「金は自白剤のようなもので、人間の本質を引き出してしまう。だから、嫌なやつは金をもつとますます嫌なやつになる」

・映画みたいだ、と感じたのが、社交界の頂点をめざすファイマン氏のエピソード。赤十字ダンスパーティーに100万ドルという史上最高の寄付をすることで、パ―ティー実行委員になる。いわば、社交界を金で買おうとする。これが守旧派の大ひんしゅくをかう。あれこれの小競り合いがあって、ファイマンは文字通り転落(舞台の上から)。厚かましい野心家の失態として大いにオールドマネーを喜ばせたというエピソード。

・新旧の確執は古くから。古代ギリシアでは、香辛料や香水、亜麻糸といった贅沢品の輸出入で財を成した貿易商がニューリッチとして台頭したが、彼らと地主階級とのあいだには繰り返し争いが起きている。

・古代ギリシアのニューリッチは、オールドリッチに打ち勝とうとする一方で、彼らの仲間として受け入れられることを必死に求めていた、とギリシアの歴史学者チェスター・スターは述べる。「富と地位を手に入れたカコイ(ニューリッチ)は、社交面で貴族を真似ようとした。こうした社交上の意思表明は、たとえそれが貴族への賞賛であったとしても、おそらく貴族の目から見れば、この上なく苛立たしいものだっただろう」

・オールドリッチとニューリッチの確執は、1800年代後半から1900年代前半にかけて、さらに激化する。新世界アメリカの産業王や鉄道王たちが、ヨーロッパの地主貴族階級に挑戦しはじめた時代。

・金メッキ時代のアメリカの富豪たちも、貴族階級より裕福ではあるものの、ヨーロッパの王室に認められ、賞賛されることを常に求めていた。

・今日のリッチスタン人も、上流階級の門戸を突き破ろうとしている。それがオールドリッチとニューリッチの新たな確執を生んでいる。100年以上前の金メッキ時代と同様、いまのアメリカでも、ニューリッチが富裕層コミュニティに大量参入し、血筋や家柄ではなく、金に基づく社会的ヒエラルキーを築こうとしている。

・リッチスタン人にとって、名士録に名前が載ることなどもはや当然のことだ。彼らが競って登場したがるのは、「ハンプトンズ」「アスペン・ピーク」「ガルフショア・ライフ」といった新種の社交雑誌。

・今日の即席起業家出自はさまざまで、明確な「支配階級」もなければ、ニューリッチ全体に共通する価値観もない。旧富裕層は、慎みや伝統、公共への奉仕、慈善、洗練された余暇活動を誇りとしたが、リッチスタン人が誇りとしているのは、ミドルクラスの倫理観と、自力で築いた資産、そして高額消費。

・「ニューリッチの夢はこうだ。ある日、町の名門一族の主が名刺ファイルを繰って、電話をかけてくる。そして、こう言う。『君のお金が必要なんだ』。そこで金を出し、仲間に入れてもらうというわけさ」。

・パームビーチの決まりごと。一度着たドレスを別のパーティーに着ていくのは厳禁。目立つブレスレットと目立つイヤリングを両方つけるのはいいが、目立つネックレスまで一緒につけるのは、やりすぎ。

・慈善パーティーの実行委員長になって賞賛されるためには、金持ちの友人を総動員し、大金を寄付してもらう必要がある。しかも、集めたのと同じ金額を自分も寄付しなければならない。もちつもたれつのおかげで、金さえ積めば慈善家としてパームビーチ社交界での地位を築けるようになった。しかも、寄付はすべて課税控除される。

・ベントレーは、15万ドルとやや手頃だ。ベントレーによると、需要が非常に高いので通常の広告を打つ必要はまったくないという。「この車を買える人は、向こうからわれわれを見つけてくれます」

・美術品は壁を飾るだけでなく投資にもなると、ニューリッチは信じている。資産マネージャーやファイナンシャル・アドバイザー、美術商、ギャラリー、それにオークション会社が結託して、美術品は蓄財の手段だと宣伝している。チャック・クローズの肖像画は、ただの絵ではなく「リスク相関のない資産」であり、美術品は居間のバランスだけでなくポートフォリオのバランスも整えてくれるのだ。

・美術商は、美術品を金融商品に変えることで、美術品市場のリッチスタン人にとっての魅力をぐっと高めた。

・支出のトリクルダウンは、野心のトリクルダウンを伴う。これほど多くの富裕層が財力を誇示するのを見て、ミドルクラスやアッパーミドルクラスでさえも急に相対的な貧しさを感じ、負けじと身の丈以上の支出をしはじめる。

こういう側面を知っておかないとラグジュアリー業界の見え方が片手落ちになる。といっても本に書かれていることすら、ごく一部の話だと思うが。

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