スーツの季節、そろそろ到来ですね(シーズンレスな服ではありますが、クールビズが終わり、秋冬向けウール素材でのスーツの季節が本格的に始まるという意味で)。

先日出席した駐日大使歓迎ディナーのドレスコードは、「ビジネススーツ」でした。会社帰りの方にもご配慮して、とのこと。

スーツを着るのが当然という世界がある一方、就活したくてもスーツ一式を買えない、買えないから面接に行けない……という悲しいスパイラルもある。安いスーツがあるといっても、靴、バッグ、シャツ、時計などなどの小物をひととおり合わせなくてはならず、その小物にこそその人の背景が表れてしまうというのがスーツの恐ろしいところでもあるし。「若年無業者の4人に1人がスーツを持っていない」という記事。↓

http://blogos.com/outline/70057/

なんでここまでスーツが常識なのか。

イギリス人が19世紀に植民地政策とともに英語&ジェントルマン理念とセットで世界に普及させ、それが定着して、いつのまにかルールになってしまったらそれが勝ち、って考えてみたら無茶苦茶なことですね。これほど周囲から「監視」され、バリエーションが許されない服というのも珍しい。成文法なんてどこにもないのに、なにが「正しい」のか、大真面目に議論され続ける。スーツを着て働き、社交しなくてはならない男性のみなさん、息苦しくないですか?

「たかが服、どうでもいいことだから、慣習にしたがっとけばそれがラク。ほかにもっと真剣に考えなくてはならないことがある。それになんだかんだといってスーツは男をかっこよく見せてくれるし」。そんなところでしょうか。

「正しさ」の根拠なんて、ほんと、いいかげんで、きわめて人間くさいものです。多くの場合、「歴史」のなか、「起源」をたどると、その「正しさ」の根拠らしきものが見えてきます。ふりかざされる「正しさ」にどのように対処するか、それがスーツの着こなしにもあらわれてきますね。ゲームのルールを厳守するのか、ルールをもてあそぶのか、ルールからはずれてしまうのか。その姿勢にこそ、教養やら性格やら社会的な立場やら各種余裕の有無やらエゴやら、とにかくいろんなその人のことが見えてきます。

その「起源」にしても、いろんな考え方があるのは当然。ひとつの事象の見方は、人間の数だけあります。起源ですら絶対ではなく、あくまで、ひとつの解釈。そこまで理解して、はじめて、あなたなりの「正しさ」とのつきあい方が決まる。

以前に告知しましたが、あらためて。10月に、明治大学リバティアカデミーにて、はじめて社会人向けスーツ公開講座を担当します。私の<歴史編>と「丸井」のバイヤーさんによる<実践編>からなる連携講座です(セットにはなっていますが、どちらか片方だけ受講していただくということでもかまいません)。スーツについて多角的に学びたい方、その入門編としていかがでしょうか。このマイナーなテーマにしては申し込み順調につき(ありがとうございました)、来春も開講が決まりました。とりあえず、10月の講座はまだ少し残席あるそうです。お申し込みはこちらから↓。

https://academy.meiji.jp/course/detail/1369/

電子書籍「スーツの文化史」(→)も参考書としてどうぞよろしく。

2 返信
  1. やじさん
    やじさん says:

    以前『スーツ神話』を拝読させていただいた時には失礼ながらスーツをおめしにならない女性が書いた本とは信じられませんでした。
    評論家の言うことは参考にしても自分で実際に触れてみないと納得出来ない質なのですが、スーツ神話は本当によく調べて書いてあることが伝わって来ました。
    確かに大学に行っている時も入学式や成人式を除くと就職活動までスーツを着ないと言う学生も多いと思います。
    更にブログに書かれているスーツを持っていない人にしてみれば、スーツだけでなく、スーツスタイルを全て揃えるのはかなりの負担だと思います。
    例え一万円でスーツが買える時代になったとは言え、やはりネクタイや靴は個人の人格までも露わにする面があり、ドレス・シャツもコーディネートのバランスが悪いとチグハグに見えたりします。
    着慣れた人にはあまり苦にならない組み合わせる営みも着慣れない人には訳も分からず、大変だな、と感じます。
    スーツスタイルを纏っている人の大半もルールが分かっているのかな、と言う感じなのに、スーツを着始めた人にルールを求めるのは酷な感じがします。
    本当は商売抜きで教えてくれる人がいれば良いのですが。
    本屋に並ぶファッション雑誌や本のどれを読めば理解出来るのか。
    結局、自分で消化出来た範囲で理解して、スーツスタイルを整えるしか無いのでしょうね。
    中野さんにこうした男性の助け舟となる著書を紡ぎ出してくれることを期待しています。

    返信
  2. kaori
    kaori says:

    >やじさん
    コメントありがとうございます。
    私のスタンスはあくまで文化史的な観点からひとつの見方を提示させていただく、ということで、実践的な部分は、門外漢としてできるだけ立ち入らないようにしております。
    …という立場だったのに、やはり現実に求められるのは「では、いま、ここで、どう着ればいいのか?」という話ばかりで(あたりまえですよね)、私がさまざまな現場の方から学ばせていただいている最中でもあります。
    歴史と現在をつなぐという作業が、より多くの人に幸福をもたらすような形で行えればいいなと思っています。
    今後ともどうぞよろしくご助言をお寄せください。

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