「ベージュ アラン・デュカス東京」が今秋、10周年を迎えます。おめでとうございます。

それを記念して、今年は6月、9月、12月に特別な「シャネルとのランデブー」がおこなわれるとのことで、その企画のお披露目を兼ねたプレスランチにお招きいただきました。

シャネル社長リシャール・コラス氏、アラン・デュカス氏、総料理長の小島景氏も同席、それぞれに楽しいスピーチを聞かせていただきました。コラスさんは、コラボする相手を探すためにフランス中の三ツ星レストランを食べ歩き、最終的にデュカスさんの人柄とお料理に惚れ込で、「ベージュ」のシェフをお願いしたとのこと。デュカスさんに対するコメント、「同じ言葉を話す人」「仕事のすばらしさは当然のことながら、それ以上に、人柄がすばらしい」という表現が印象的でした。

たしかに、大きな仕事をともにするには、「同じ言葉を話す人」という感覚がとても大事になってくる。同じ言葉とはつまり、何を美しいと感じるか、何に価値を見出すか、ということでもあるけれど、たとえば、挨拶のしかた、話し方、敬語の使い方=人との距離のとり方、そんな微細な空気のようなことも含まれてくるのだと思う。

総料理長小島景さんは、いつもどこか修行僧のように無口な印象ですが、話すとなかなかお茶目。

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「鎌倉からかついでくる」という野菜の数々はユニークで、フレッシュで美味でした。

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小島さんは、今回の「ランデブー」のために、はじめて下のシャネルブティックを見て回ったとのこと。シャネルの製品を支える職人技、店員の対応、商品の並べ方、そんなところにインスピレーションを得たそうです。

日本でしか味わえない王道フレンチとはこういうこと、という職人技を見せてくださいました。熊本産赤フィレのロースト。合わせるワインが、2008年のVin de Pays Bouches-du-Rohone Domaine de Trevallon.

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同じテーブルには、Dress編集長の山本由樹さん(右)、ダイナースクラブ会員誌Signature編集長の伊藤美智子さん(正面)、元テレ朝アナウンサーでエッセイストの南美希子さん(伊藤さんの左)、フードクリエーターのマカロン由香さん(左奥)、食空間デコレーターの多賀谷洋子さん(右奥)。刺激的な方々と、楽しいひと時をご一緒しました。

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おみやげはシャネルのモチーフをちりばめたチョコレート。カメリアやシャネルロゴなど、食べてしまうのが惜しいくらいのかわいらしさ。

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原稿用の資料として読み始めたら面白すぎて一気に。

シャネルとの共通点も多々。実の親に「見捨てられ」(ジョブズは育ての親には大事に育てられているが)、矛盾だらけで、唯我独尊で周りの人に畏れられ、でもアーティストの純粋さと鋭いビジネス感覚をもって、誰も真似のできない仕事をして革命を成し遂げた人。

面白い表現に出会う。ジョブズがまとい続けた「現実歪曲フィールド」。詳しくは原稿で。

一緒に働いていた人はたまったものではなかったろうな…というほどの独断専行ぶりが面白いが、それでもそのカリスマに人は魅せられた。

「ジョブズが極端な言動に走るのは、他人の感情を思いはかる能力がないからだろうか。そんなことはない。むしろ逆だと言える。 (中略) だから、おだてたりすかしたり、説き伏せたり喜ばせたり、あるいはまた、脅したりすることも名人級に上手なのだ」

「『他人の弱点をピンポイントで把握できるのがあの人のすごいところです。どうすればかなわないと思わせられるのか、どうすれば相手がすくむのかがわかってしまうのです。これはカリスマ性があり、他人の操縦方法を心得ている人に共通する資質だと思います。かなわない相手だと思うと弱気になり、彼に認めてほしいと願うようになります。そうなったとき、褒めて祭り上げれば、あとはもう意のままというわけです』と、ジョアンナ・ホフマンも言う」

藤巻幸夫さんのお通夜。増上寺に少なくとも1000人以上が焼香の順番を待っていた。

お気に入りのケイタマルヤマのジャケットを着た笑顔の写真。いまにも大きな声で「よーかんちゃん行こう!」と喋りだしそうな…。よーかんちゃんとは、名物店主のいる藤巻さんお気に入りの店。

共通の知り合いと会場で会ったら、あらためて楽しい時間がよみがえり、泣けてきた。

ちょうどこのタイミングで、ある新聞社から「男のおしゃれと美容」について電話取材を受けた。

いずれ灰になるのに、おしゃれするなんて虚しいことだろうか。いや、いずれ灰になるからこそ、生きているうちはかっこよく装え。って藤巻さんなら言うだろうな。

男は女のようにヘアメイクできないから、と藤巻さんはメガネを4種類持ち歩いていた。藤巻百貨店オープンの対談のときに、4本すっきり収納できるメガネケースとともに見せてもらった。昼間のオフィシャルな会議用。昼間、人に会うとき用。夜の会食用。深夜、アブナくなるとき用(笑)。いちばん最後のメガネは、レンズの形が左右で違うのだ。右が□で左が○。メイクなんかよりはるかに変身効果がある。

なんのためにここまでするのかといえば、サービス精神なのですね。目の前の人に最大限楽しんでもらいたいという、無邪気なサービス精神。その結果、コミュニケーションが深まり、忘れがたい時を共有する結果につながれば、それはおしゃれの功績といえるのではないか。いや、そもそもそんな功績を計算する精神はおしゃれじゃないが。

WWD編集長だった山室さんも、ちょうど去年の今頃、50代前半の若さで、東京コレクションの直前に急逝した。やはり過剰なほどのサービス精神とファッション愛の持ち主で、周囲を引き立て、結果として周囲に信頼され、愛された人だった。藤巻さんと同じ魂の持ち主だ。みんなの喪服がダサイね、もっとおしゃれにならなきゃだめだね。なんて向こうで二人熱く議論を交わしていらっしゃるだろうか。

藤巻さんのいるところ、いつもにぎやかで熱気と笑い声にあふれていた。ときどき、楽しいユーレイになってこちらの世界のパーティーにも遊びに来てください。

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藤巻幸夫さんが54歳で天に召されました。一昨日、藤巻百貨店さんとの仕事の打ち合わせで、病状のお話を聞いていたばかりでした。

いつもエネルギッシュでポジティブで、パーティーに行けばしゃべりっぱなし、必ず周囲にたくさんの人垣ができる太陽のような人だった。ケチくさいことやもったいぶることが大嫌いで、いいと思えば、どまんなかストレートの剛速球でどんどん話を進めていく。世の中をよくすること、周囲を楽しませることにエネルギーを惜しまず、過剰なほどのサービス精神で、状況も人もすべてをいい方向に変えていく、「場の錬金術師」のような人だった。朝の5時まで飲んで、7時からテレビ出演をするような、そんなハードな生活で身体に無理がきてしまったのかもしれない。でも、身体をいたわるために減速しろといってできるような人でもなかった。いまできることは全部今やっておかねば生きている意味がないと考えるような人だった。

あのアツイ語りはもう聞けないのかと、ほんとうに大勢の人が泣いているだろう。日本の未来にとっても貴重なリーダーだった。

藤巻百貨店オープン時の対談の第一回目にゲストとして呼んでいただいたほか、どんなパーティーでも必ず引き立ててくださって、多くの方々と知り合いになるきっかけをいただいた。藤巻さんの友人というだけで信用保証になり、仕事と友人のネットワークが豊かに広がった。大学にもゲスト講師として来ていただき、学生たちに本気の刺激を与えてくださった。あの場で将来を決めた学生さえいる。もう一度ぜひ、という話をしていたのに、叶わないままになってしまった。感謝してもしきれないほどの恵みを与えてもらい、今度はこちらが恩返しをしなくてはと思っていたのに、それも叶わぬままになってしまった。

藤巻さん、ありがとうございました。日本をよくしたい、日本をもっともっと美しくしたい、というかねてから聞いていた藤巻さんの志を、微力ながら、受け継いで働いていくことが、少しでもご恩返しになるでしょうか…。ご冥福を祈ります。

「デスパレート・ロマンティクス」、見始めたら止まらず最後(エピソード6)まで。6時間あっという間だった。これは傑作。

プレ・ラファエロ・ブラザーズのメンバーそれぞれの「リレーションシップ」がメインテーマになっている。ダンテ・ガブリエル・ロセッティとリジー、ウィリアム・ハントとアニー、そしてジョン・ミレーとエフィ、ジョン・ラスキン。彼らのそれぞれのリレーションシップがユニークで本気で複雑でデスパレート、だからこそ普遍性をもつテーマとして深く迫ってくる。

ロセッティなんて、嘘つきで女たらしで口ばっかりで自己チューのどうしようもない奴として描かれるんだけど、瞬間瞬間の自分に対して正直なので、憎めなかったりもする。しかも演じているのがエイダン・ターナー。美しいというのは、それだけで「正しい」んだよな…と思わせる。理不尽だけど、美にはそれだけの力がある。

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この花柄のウェストコートはごくごく一例なのだが、とにかく出てくるヴィクトリアン&ボヘミアンのコスチュームがすばらしい。

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聞き取りづらいところを字幕で追うのに必死で、コスチュームの細部をじっくり観察できなかったが、ぱっと見の色彩の組み合わせだけでも絶妙なのである。

それぞれの人物造形が生々しいし、ささいなエピソードも感情をゆさぶるので、このドラマを見てから、「ザ・ビューティフル」展と「ラファエル前派」展を見たら、味わいが全く違ったものになること必至。

ぐっとくる名せりふも散りばめられている。たとえば、アカデミーの全員が笑い、文豪ディケンズがプレ・ラファエル・ブラザーズをけちょんけちょんに貶すなか、ただひとり彼らの擁護に立ったラスキンのセリフ。

「ワーズワースも、ターナーを笑った(Of course Wordsworth mocked Turner)」。

ディケンズがプレラファエルを笑ったこととオーヴァーラップさせての一言。

口八丁で本能に生きるロセッティがリジーについて語るセリフも。

「彼女は、僕の才能という宝を解放する鍵だ (She is the key to unlock the treasure of my talent.)」

そのリジーをボロボロにするのがロセッティなんだけどね…。

一人でも多くの美術ファン、ファッション好き、BBCドラマ愛好家に見て欲しいドラマなので、ポニー・キャニオンさんあたりに、ぜひ、日本語版を出していただきたい!!!

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さすがはBBC。原稿書くために調べ物しているうちに遭遇しました。ドラマになっていたのですね。ラファエロ前派兄弟団。タイトルはDesparate Romantics. にっちもさっちもいかないロマンチストたち。

日本ではDVDが出ておらず、さっそくUK版を注文したのですが(PCでならば再生可能)、届くのを待ちきれずにYoutubeでいくつかのシーンを見ていたら、血気盛んなイケメン美大生たちが正統派アカデミズムに殴り込みをかけ、合間にイマドキ美人モデルとあんなことやこんなことを…というロックな青春ドラマのようになっているみたい。ヴィクトリアンファッションも眼福。

日本ではLaLaTVで「SEXとアートと美しき男たち」のタイトルで放映されたようです。(まんまなタイトル)。アメリカのヒットドラマにかこつけて「デスパレートな画家たち」……だとパクリっぽく聞こえてしまいますかね(^_^;)

どなたか、これに日本語の字幕をつけて日本版を出してくださいませんか?

あわせて、資料として購入したDVD。「ビル・カニンガム・ニューヨーク」と「ヴィダル・サスーン」。

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おおたうにさんのイラストとミニエッセイによる美女図鑑。伝説の美女たちにどっぷり感情移入しているゆえの面白さ。うっとり、クスクス、心を動かされつつ読み終わればなぜかじわっと広がる哀しさ、ナミダが落ちる。すばらしくて、あっぱれで、やがて哀しい美女の人生。

マリア・カラスへのコメントがとりわけぐっときますね。「考え方がブス発信。きっとどんな女性を見ても、常に自分より優れた部分を無意識に探してしまったり、するんだろうな。『自分を大切にしなさい』『自分を愛せない人は愛されない』今では女性誌がこぞってこんなことを言うけれど、ほんとうに必要な女の耳に、こんな言葉、届くもんか」

マリリン・モンローへのコメントも泣ける。「若い頃から、人に見られる場所を目指しつづけた女の子は、やがてスペアのいない唯一の存在になったけど、本来の自分をどこかに置き忘れてきてしまった」

ソフィア・ローレンの言葉も。「ジョージ・キューカー監督に言われたわ。『自信のない美人は、自信をもった醜女より美しくないもの。自信をもてば美しく見えるんだ』。自分の醜さを信じる女は、他人にも醜さのみを感じさせてしまいます」。

どう見ても美人のカテゴリーには入りづらいあの結婚詐欺師の女性(最近刑務所ブログを始めたようですが)が、ある種の男性たちにとって「絶世の美女」と見えてしまうのは、やはり彼女の自信のなせるわざなのでしょうね。

まえがきに書かれる美女の定義も、いいですね。「私の思う美しい女性たちには、水晶の柱みたいな透き通る強い芯が、すっと通っている。容れ物の美しさは年月を経るごとに変化してゆくが、目というふたつの穴から覗く本質の輝きにその背骨を見るとき、心から、そのひとの持つ、特別な美に感動する」

3月1日、17時にうお座で新月です。2014年最初の2ヶ月も怒涛のように過ぎ去った。1月1日の新月が遠い昔のような。春に向けてリスタートするのにいい日かもしれません。