(ネタバレあり、これから観る方は読まないでください!)

「ダウントンアビー」シーズン3、終。1920年代を描いたこのシーズンも波瀾万丈で、ありとあらゆる人生の断片がちりばめられている。感慨深かったことのメモ書き殴りです。書かずにいられなかったので御免。くどいですが、これからご覧になる方はどうかお読みにならないでくださいませ。

クリケットのシーンにじんわりくる。白いクリケットのユニフォームと芝生の緑の美しさ、アイヴォリーの衣装やパラソルで観戦する女性たちの優雅な空気感。最後に、トム・ブランソンがしっかりと捕球して試合終了、階級のゆるやかな融合の象徴でもある。その背後にある葛藤と愛と寛容と理解のプロセスが丁寧に描かれているからいっそう心打たれる。トムは階上で過ごしながら、周囲の人々から「紳士」として扱われるうちに、だんだんいい顔、「紳士の顔」になっていくんですね。女性をレディにするためには、周囲がレディとして扱うことが大切、という「マイフェアレディ」のメッセージも思い出す。かつて仲間であった階下の人々が、やっかむことなくトムを「紳士」として扱うその節度の美しさにも感動する。

階級が融合してはいけない場合もある。トムを誘惑するエドナ。彼女を解雇し、守らねばいけないルールがある、と諭すヒューズさんのことばにしびれる。

がんばっているトムも、ヒューズさんの前では泣いてしまう。そんなヒューマンな弱さのさりげない演出もいい。

決定的なシーンの具体的描写が常に避けられ、その前後をうまくつなぐことでかえってイマジネーションをかきたてられ、品のよい奥ゆかしさが保たれている。結婚式の誓いのシーン、お葬式、鹿の狩猟、出産の瞬間、事故の瞬間、無罪逆転裁判、そのようなインパクトの強いシーンはつねに、省略されているのですね。前後のつながりで、ああそうなのかとわかる。でも、レディシビルが「旅立つ」瞬間は生々しくリアルに描かれる。

ドラマのスタート時にはいやなやつの代表格だったゲイのトーマス、なにやかやとお屋敷の人たちに助けられるうちに次第にいいやつになっていくのがいい。ついには愛する人のために自己犠牲。誰であれ、人に対する善意とか思いやりは、人を変えていく。ひるがえって、環境全体がよくなっていく。

ゲイに対する扱いも巧みですばらしい。当時の状況(ホモセクシュアルは投獄された)もきちんと描きながら、現代の観客にも配慮している。ダウントンの住人たちがゲイも人間の「弱さ」(当時の人のゲイに対する<上から目線>は、時代感覚としてはしかたがないです)として赦し、見逃し、受けとめていくという描き方。愛とよき知性に満ちた脚本。

マシューのお母さん、毅然とした看護婦のお母さん。お医者さんにさりげなくプロポーズされるチャンスをみすみす逃している。あれは、意図的に気づかないふりしたのか? それともほんとうに鈍感で気づかなかったのか? 人によって見方が分かれるであろうところが粋な演出。私は後者のように感じる。ずっとあとになってからチャンスを逃したことにはっと気づくか、永遠に気づかないのだ。この色気無縁の毅然すぎるお母さんがいちばん私と似ているかもしれない。

幸福の絶頂、この上ない愛と幸せに包まれた至福のなかのマシューのドライブシーンとその後。

シャネルの愛人、アーサー・カペルも同じ気持ちのときに同じ運命をたどった…とふと連想する。やはり20年代、車がリッチな男のステイタスシンボルとして出回り始めたばかりのころである。

マシューとメアリーは、これまで観たドラマのなかでもとりわけ思い入れが強いベストカップル。マシューとメアリー。これまでの長い軌跡を思い出しただけで幸せになれる大好きなカップル。何も知らずに完璧な幸福に包まれたメアリーと生まれたばかりの息子の美しさに涙涙涙でシーズン4を待たねばならないのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2 返信
  1. so
    so says:

    中野香織様  前回「ダウントン・アビー」についてコメントをした時 1900年台と記述すべきところを誤って19世紀としてしまいました。 申し訳ありません。 BSのほうも第3シーズンが放送終了しました。私も眠くて見ていられないので毎週録画をして自分の都合のいい時間に見ていました。中野香織様のおっしゃるように衝撃のラストでした。感想のメモ書きを書かずにいられなかったお気持ちが良くわかります。ずっと目の離せないドラマでした。メアリーと生まれたばかりの赤ちゃんは失意のどん底に落とされるのでしょうか。メアリーは、立ち直ることができるのでしょうか。中野香織様がシャネルとその愛人アーサー・カペルにオーバーラップされる思いに同感です。私もメアリーとマシューは素晴らしいベストカップルだと思います。ベイツさんとアンナが幸せになったことが嬉しいです。第4シーズンが待ち遠しいです。 

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    • Kaori
      Kaori says:

      soさま
      年代の件、ノープロブレムです! コメントありがとうございます。最後のシーンは絶叫でしたよね…。シーズン4,5はすでにイギリスでは放映終了しているので、よほどDVDをとりよせてついでにそれを再生できるデッキまで買おうかなどど考えたりしました。笑 しばらくは、ダウントン関連の美しい写真本を眺めて楽しむことにしておきます。

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