BBCの文芸ドラマシリーズ、『North and South』(北と南)。エリザベス・ギャスケル原作。ずっしりと濃くて、重くて、社会問題を真正面から問うている骨太な物語なのですが、荒涼とした風景のなかに貫かれるロマンティックな恋物語がいっそう美しく迫ってきます。north and south

舞台は1850年前後のイギリス。産業革命のさなか。ヒロインのマーガレット・ヘイルは、太陽が輝く南部の田園地帯に生まれ育ちましたが、父の仕事に振り回されて、北部の工業地帯、ミルトンへ移り住むことを余儀なくされます。

このミルトンの光景がすさまじい。綿織物工場地帯で、曇天の中、綿花のくずが空中に舞い散り、ぼろぼろの服をまとった貧しい労働者たちが黙々と機械を動かしている。当然、綿花のくずをすいこんで病んでいる労働者もいる。この労働者たちがやがて賃金上昇を求めてストライキを起こすのですが、経営者たちの考えと、労働者たちの切実な現実の対比が、リアルに描かれる。今もけっして遠い世界ではない超格差社会の原型がおそらくここにありますが、ヒロインのマーガレットはその両方の世界を、人間的な凛としたやさしさと正義感でもって行き来します。

工場経営者のひとりに、ジョン・ソーントンがいる。まったく笑顔を見せない厳しい経営者で、ヒロインの価値体系からすれば「紳士的ではない」男なのだけれど、彼なりの工場経営者としての哲学があるんですね。タバコを吸った労働者を殴り、解雇するのは、工場を守り、ひいては他の労働者たちを守るため。一見、冷酷だけれど、最新式の機械をどこよりも早く導入したのは、労働者の健康を守るため。賃金を上げなくても、そんな設備投資は黙ってきちんとやる経営者。

そんなソーントンと、マーガレットは、まったく相いれない考えをもちながら、理解と誤解と対立と反発を繰り返しつつ惹かれあい、最後には深い、究極の受容へと落ち着いていく。ようやくすべてのわだかまりが溶けて、ふたりがおだやかな笑顔で見つめ合うシーンには涙涙涙…。長い長い葛藤というか、じらしの末のハッピーエンドというのは、メロドラマの王道ですね。

ソーントン役に、リチャード・アーミティッジ、マーガレット役にダニエラ・ダンビ・アッシュ。リチャード・アーミティッジの声と目にはやられます。あの目が語る”Look back, Look back at me…”は切なすぎて息苦しくなるし、マーガレットに求婚し、拒絶されたときの叫び”I don’t want to possess you.  I wish to marry you because I love you.”にも倒れそうになります。なんでマーガレットはここで断る?! ええい、素直にならんか。 まあ、メロドラマだから「関係の決定的破綻」を一度まんなかに入れないと物語にならないのはわかっていますが。

ストを指導するリーダー、ニコラス・ヒギンズを演じるのがブレンダン・コイル。ダウントン・アビーのベイツさん役の方で、こちらもまた、はまり役です。

また、小さなころから低賃金で働くことしか選択肢がない綿織物工場労働者の悲惨な状態は、ファストファッションの工場地帯となっているバングラディッシュの状況と重なります。ファッション産業のかげに労働問題があるということは今に始まったことではないのだということを、あらためて考えさせられます。

イギリスのコスチュームドラマは貴族のお屋敷ものが人気ですが、このような産業革命期の荒涼とした工場地帯を描いたものは貴重です。19世紀中庸の北部工場経営者、労働者、そしてロンドン社交界のファッションの比較もできる。BBC衣装部さん、よい仕事していらっしゃいます。230分ほどあり、長いですが、ずしり見ごたえのある佳作です。

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