またしても日本ではまったく報道されていないので、いちおう概要だけでも知っておきたいファッション事件として、ごくごく簡単にご紹介しておきます。

9月中旬におこなわれたNYコレクションで、もっとも物議をかもしたのが、マーク・ジェイコブズでした。

白人モデルが黒人文化の象徴であるドレッドヘアを、カラフルなかつらとして「盗用」したことで、Twitter上で大々的なバッシングが起きました。

VogueやDazed & Confusedなどのモード系の雑誌は、そんな「言いがかり」などスルーしてジェイコブズ賛。他文化からの「盗用」など気にし出したらファッション史など成立しないので、この態度は正しいと私は思っています。

Timeなど一般紙は「編み込みヘアの議論などどうでもいいじゃないか。アフリカン・アメリカンが置かれているシビアな現実をもっと直視せよ」と。(この態度は、圧倒的に正しい。)

その後、ワシントンポスト紙で、ピュリッツアー賞受賞のファッションライター、ロビン・ギヴァンが、マーク・ジェイコブズを擁護する記事を書きました。すると今度はギヴァンまでがバッシングの対象になりました。

植民地支配を受けたことがなく、文化に「上」も「下」もつけず、よい「舶来」のものはどしどし取り入れて自国の文化にしてきた日本人には「はあ?」という問題なのでしょう。ほとんど日本で報じられていませんが、昨年の「ボストン美術館キモノウェンズデー事件」で引き起こされた「文化の盗用」問題は依然、くすぶりつづけているようです。

昨年のボストン美術館キモノウェンズデー事件に関しては、こちらに寄稿しております。

無理解と不寛容は日本ばかりでなく、もっとも愛と寛容の世界であるはずのファッション界にも広がっているというのがなんとも悲しい。

どんどん最新ニュースが更新されていますが、今の段階までのおおよその流れは、こちらをご覧ください。

marc-jacobs

 

ヴァルカナイズ・ロンドン発行「Vulcanize Magazine」Vol.12 リリースされました。

img012

特集「服飾史家・中野香織がヴァルカナイズ・ロンドンで選ぶ紳士の名品20」。img014

最新のイギリス発の20アイテムのコピーを書きました。全12ページ・20アイテムのご紹介のなかに「紳士論」を練り込みました。

ヴァルカナイズ・ロンドン店頭で入手できます。『紳士の名品50』も販売してくださっています。 9-14-2016-2
秋のロンドンを感じる散歩に、ぜひお出かけください。

 

「いつものような感じでイギリス紳士について書いてください」という原稿依頼が、光栄でありがたく思うと同時にいちばん難しい。言葉通り受け取ってほんとうに同じようなことを書けばマンネリになるし、かといってまったく違うことを書けば一貫していない印象を与えたりする。だから絶えず新しい情報をインプットし続けなくてはならない。それで大きく見方が変わったりするわけではないけれど、すでにあるものだけで練り直すよりもはるかによい。

書く方からいえば、まったく新しいテーマや人を取材して書くのがいちばん新鮮で書きやすかったりする。かといってそんなことばかりやっていると、仕事がとり散らかる。

どんな仕事にもマンネリとの闘いはありますね。さて。イギリス文化の知識アップデートのための本とDVD。

イギリス史の基礎の学び直しができる良書。林信吾『女王とプリンセスの英国王室史』。

なぜ皇太子を「プリンス・オブ・ウェールズ」と呼ぶのか。ユダヤ人問題の起源はどこにあるのか。ロンドンの起源は。「国王は君臨すれども統治せず」はどこの誰が言いだしたのか。(こういう基礎的なことは、昔一度学んだくらいではすぐに忘れる。)

エリザベス1世、エリザベス2世(この二人に血縁関係はない)、ヴィクトリア女王、ダイアナ妃、ウォリス・シンプソン、キャサリン妃など、王室史をいろどるおなじみのクイーン、プリンセス、コンソートなどが、ときに手厳しい視点で、描かれる。彼女たちをめぐるおなじみの人物も新たな視点から見直すことができる。

人物評価には、評価している本人が投影される。人物について書くときには、こちらが浅いとそれなりの見方しかできない。信頼を手ひどく裏切られて落ち込んでいても、苦い経験が人や自分を見る目を深める勉強のきっかけになったと思えば少しは救われる(そう思うことができればなんとか生きていける)。なによりも王室の愛憎裏切り激動のドラマは、自分の境遇を少しはマシに見せてくれる。

 

 君塚直隆先生『女王陛下のブルーリボン』(中公文庫)。安定の君塚先生の本格的な歴史研究書。注や巻末の勲章受章者リストも充実。でありながらワクワクしながら読める教養書としても成立していて、すばらしい。イギリスの王室外交に不可欠なはずの勲章、正装のときに必ず装われるブルーリボン(ガーター勲章)について、まともな知識がなかったことを深く恥じ入る……。この一冊でまずはしかと学び直します。人物や史実の説明に関しては、これまでのご著書と重なる部分も多いけど、それは復習ということで。

 こちらも君塚直隆先生。『ジョージ5世』。エドワード8世とその弟ジョージ6世の、厳しい父王です。この子供たちに起きるドラマが壮絶なために、父王ジョージ5世は比較的地味な存在でしたが(私にとって、です、はい)、あらためてどんな人だったかを知ることで、エドワード8世&ウォリスの事件も違うふうに見えてくる。

それにしてもイギリス王室はどこまでも奥が深い。

 

 

 もう授業でも何十回と扱っているほどの不滅の名作「Chariots of Fire(炎のランナー)」。ジェントルマンとスポーツ、アマチュアリズムについて、登場人物それぞれの立場から語ることができる。この映画の製作にあたっていたのが、ドディ・アルファイドだったという事実を今さらながら知る。ハロッズのオーナーの息子で、ダイアナ妃とパリで事故死した方ですね。

週刊新潮9月15日号、吹浦忠正さんによる「オリンピック・トリビア」からの発見。

 

肖像画で読み解くイギリス王室シリーズをまとめ読み。
 君塚直隆先生の『肖像画で読み解くイギリス王室の物語』。これすばらしい。豊富な文献を押えて、これまでぼんやりと眺めていた、あるいは初めて目にする、王室のメンバーが描かれている肖像画を、謎解きのようにスリリングに読み解いていく。とくに「群像」で描かれている絵の解説がいい。さりげなく書かれたフレーズから、これまで盲点だったイギリス史に関する知識を学んでいける。新しい発見の宝庫で、わくわくしながら読んだ。安定の君塚先生の技量が堪能できる、充実の一冊。

 

 こちらは齊藤貴子先生の『肖像画で読み解くイギリス史』。君塚先生がとりあげていない王室のメンバーとその周辺の人物を、君塚先生よりも情緒的な筆致で描いていく。(同じようなタイトルなので、つい比べちゃいますね、ごめんなさい。)後半は王室メンバー以外の人々を描く肖像画から、近現代のイギリスに迫る。男女の関係を書くとき、齊藤先生の筆致はより光る。エリザベス1世の50代のときの愛人、20代のエセックス伯のこととか。
君塚先生、齊藤先生の読み解き、それぞれに丹念に調べぬいたうえ、読み方と文体にオリジナリティがあって、豊かな読後感が残ります。

Nicholas_Hilliard_013
ニコラス・ヒリヤードが描く、エセックス伯ロバート・ドヴルー。50代のエリザベス1世を惑わせた「白タイツの王子様」。写真はWikimedia Public Domainより。

Gossip Girl Season 6 (final season). 昨年出てすぐ買ったのに、一年以上放置していた。終わってしまうのがとにかくいやで、後回し後回しにしてようやく決着をつけるような思いで観了。以下、感想と呼べるほどのものでもなく、印象のランダムなメモです。ネタバレがありますので、これからご覧になる方は読まないでください。

シーズン1から6年。6年で人も状況もこれだけ変わるのか。キャストの成長とともに俳優も成長していて、感無量。(比べるところではないけれど、私も6年前とは別人だ。状況も激変した。)

キャストそれぞれに個性があって、みんな好きなんだけど、ブレアの表情のめまぐるしい変化には問答無用に魅せられた。女性の魅力というのは本来の造作よりもむしろ、表情やしぐさにあることが、ブレアを見ているとよくわかる。メイクやファッションというのは、ひとえに表情やしぐさなど、動きをより活かすためのもの。無表情でメイクだけきれいというのも無意味だし、静止してるときだけすてきなファッションというのも魅力がない。

メインキャストがよくなっていくのに反比例して、脚本はだんだん荒唐無稽でご都合主義的になっていく印象も否めなくはないけれど、ここまでくるともはや家族というか仲間意識のような愛着が芽生えていて、唐突過ぎるいいかげんな展開もご愛嬌として見えてくる。

「スキーミング・ビッチズ(scheming bitches)」(ワル巧みに長けた女たち)5人がずらりと横一列に並んでバート・バスのパーティー会場に乗り込む場面はゾクゾクしたなあ。

チャックとブレアの長い長い紆余曲折の愛の物語でもあったわけですが、それゆえに、このセリフの重みが効いた。

Chuck: Life with you could never be boring. Blair Cornelia Waldorf, will you marry me?
Blair: Yes, yes I will!

「君と一緒の人生が退屈になるわけがない」。善い面もダークサイドもお互いにすべてさらけだす経験をいやというほど経て理解し合ってのこの帰結。

前半輝いていたセリーナのほうは、後半くすんでしまい、中途半端な女になった感が。他人依存。逃避傾向。自信の欠如。嫉妬。女としてのプライドの欠如ゆえの執着。こうしたことが「くすみ」の原因。それもまたリアルで、学びどころ多。

それぞれの人生を闘い続けて、幾多の別れや裏切りやケンカを経て、それでも互いが互いのベストマッチとして時間をかけて成長してきたチャックとブレアは、(自分の中では)永遠のベストカップル10のなかの2番目くらいに位置するカップル(No.1はダウントンのメアリとマシュー)。

1、2回の諍いですぐにダメになってるくらいじゃ、まだまだ「ごっこ」の域を出ないってことですね。

6年分。長かった。イラつくところも、くだらないところも含め、面白かった。ありがとう。XOXO。

ブルネロ・クチネリ氏が来日、31日、イタリア大使館で開かれたパーティーにお招きいただきました。FullSizeRender (154)            (左がクチネリさん。右は通訳の方です)

ブルネロ・クチネリは1978年創業、色彩豊かなカシミアニットからスタートしました。

会社は歴史の古いソロメオの村にあります。14世紀に建てられた城の内部を修復し、1985年に本社を移転。人々に不利益を与えることなく利益を追求する「人間主義的」資本主義を掲げるファッションブランドです(途上国を搾取するファストファッションのやり方の対極を目指すというエシカルな企業)。

人としての尊厳は責任感を生み、責任感から創造力が生まれる、というのがクチネリの考え方。働く人の内面の質や満足感が、最終的に、製品の質の高さとなって表れています。

2012年にはミラノ株式市場への上場を果たします。取引初日は、始値より50%増の終値7.75ユーロで取引を終え、近年のIPO価格としては最高値をつけます。

弱者を搾取しなくても、働くすべての人を尊重し、環境や歴史を守りながら、利益を追求することができるという「倫理的」に成功するファッション企業として、近年ますます評価を高めています。

(イタリア語を英訳したバージョンですが、クチネリ氏の目指すところ)”I believe in capitalism. I need to make a profit, but I would like to do it with ethics, dignity, morals. It’s my dream.”  (By Brunello Cucinelli)

FullSizeRender (156)

 

大勢の人人人。日本庭園を臨む芝生にも人があふれるくらい。ハイヒールで降りたらずぶずぶ芝生にめりこみ、あれだけの人が歩いていたことを思うと翌日の芝生のお手入れはたいへんなことになっていたのではないかと危惧します……大使館のスタッフのみなさまごめんなさい。