行方昭夫先生『英文読解術 Mr. Know-All』(DHC)。

英文精読シリーズ、最新刊。モームの「物知り博士(Mr. Know-All)」の原文を精読しながら英文読解を学ぶことができ、同時に、行方先生による全訳も味わえる。

(あちこちで何度も書いているが)行方先生の「コンテクストを読め!」「辞書を引け!」という厳しい英文読解特訓の授業があったからこそ、どんな英語でもほぼ「読める」ようになった。字面の裏側を「読む」習慣ができた。そんな授業を思い出しながら読むと、あらためて確認できることも多く、教え方の勉強にもなります。

 

短編としての「物知り博士」も、最後のどんでんがえしが小気味よい。登場人物それぞれの心の中を想像して、思わずニヤリとしてしまう。人間がいとおしくなるような物語。誰からも嫌われる厚かましい奴、楚々として上品で慎ましい人妻。表面を見ているだけでは、人の本質なんて最後までわからない。

 

この物語のもうひとつの主役は、真珠。1925年に書かれた小説ですが、その頃はちょうど、御木本幸吉が精力的に海外進出をしていますね。1913年にロンドン支店開設、1926年にはフィラデルフィア万博にも出品。世界中から「日本の養殖真珠はニセモノだ」とバッシングを受け、そうではないことを証明するためにミキモトが真珠裁判を起こしている、まさにその最中ではないですか。養殖真珠排斥運動は1927年まで続いているので、養殖真珠が「本物」なのか「ニセモノ」なのか、まだ世界中がその判断に揺れていた時代のさなかに書かれた小説ですね。The cultured pearls which the cunning Japanese were making という表現から、ささやかな悪意が感じられます。

科学者らの証言により、ミキモトは最終的には裁判に勝ちます。それはこの小説以降のこと。

ラムゼイ夫人の「本物の真珠」は、天然ものか養殖ものか、はたしてどっちだったのかな。

 

それにしても1931年生まれの恩師のますますのご健筆ぶり!! 85歳になっても、何歳になっても社会から求められる冴えた仕事ができるというお手本でもあります。

*The cunning Japanese をどう解釈するか?に「文脈を読む」力が問われるわけですが……。「ずる賢い日本人」という否定的なニュアンスにするか、「技術力にすぐれた日本人」というホメことばにするか。

行方先生によれば、次の通り。

“モームは85歳で日本に来てから偏見をなくし
日本が好きになったようですが、この作品執筆時は
「ずる賢い」と思っていたのでしょうね。”

ここまで作者の背景を知ることが「文脈を読む」ということでもあるんですよね。Google翻訳やAI(現時点)ではとてもできません。

0 返信

返信を残す

Want to join the discussion?
Feel free to contribute!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です