半・分解展もいよいよ来週に迫り、主催の長谷川彰良氏とトークショーの打合せをしました。

じっくり話を聞くとあらためて衝撃だったな。これは世代的な違いなのか(彼は29歳)、あるいはカルチュアの違いなのか、はたまた完全に時代がそちらにシフトしているということなのか。彼が言うには、

 

「某百貨店のメンズ館には視察のためにときどき行きますが、あそこは退屈です。つまらなすぎてまったく何の感動もない」

 

彼のさらなる説明によれば、売られているモノそのものがつまらないのではない。あの環境そのもの、いわばモノを売るためのコミュニケーションじたいが古くさいのだと。

 

ではなにが面白いと思うのかと聞けば、クラウドファンディングで資金を募り、制作現場から販売まですべて見せている某集団とか、noteはじめSNSで積極的に発信しながら販売につなげている女性であるとか、つまり既存のメディアをまったく無視して、「個人メディア」として発信しながらモノづくりをしたりそれを販売したりしている「人」に魅了されるのだと。その服やモノがもっとも素敵に見えるようなコミュニケーション環境を独自にデザインしている、そういう魅力的な活動をしている「人」からであれば、10万円であれ20万円であれ、惜しまず買い物をするのだと。

 

翻って、長谷川彰良は考えるのだ。では、自分が作る服がもっとも魅力的に見える「環境」は何なのか?

それが、ほかならなぬ「半・分解展」であるという。

 

半・分解展で自分が伝える目標や美意識や技術に感動してくれた人は、おそらく自分と同じ価値観の持ち主であり、結果、自分の服も買ってくれるだろうと彼は言う。

 

100年前の技術に涙した自分の思いを、100年後にも伝えていく。これが半・分解展の目標ではあるが、彼はその先のビジョンとして自分のブランドの展開も見ている。(前回の展示ではここまで考えていなかった。)

 

では人に涙を流させるほどの要素は何かと考えるとそれは、強い感動しかない。強い感動を与えるために、今回は、前回以上に、マニアックで先鋭的なアプローチをとるという。キャプションにしても、前回はできるだけ「客観的」にしようと努めたが、今回は「自分の目にこの服がどう映っているのか?」ということを前面に押し出す。モノとしての古着の説明ではなく、「この服と僕の物語」を書く。

 

前回は、お客様の感想を先に聞こうとした。でも、自分の思いをはじめに伝えずに相手の意見を聞こうとすることは「ずるい」ことだし、相手も本音を言ってくれないことに気づいた。だから今回は、まず自分から本音で話し、本音で書く。そのほうが、相手の引き出しも開くのだということがわかった、と彼は言う。

 

自分と同じ気持ちで感動できる人を集めたい。同じ価値観を共有する人たちとつながり、新しい時代を創るためのゆるやかなコミュニティの基盤としたい。半・分解展はそのためのプラットフォームでもある。

 

彼の成長ぶりにも感動するが、どんなに攻めの姿勢で突き進もうと、「中野先生が教えてくださった言葉、Be Prepared(備えよ常に)をいつも忘れないようにしています」という律儀で誠実な態度は一貫して保ち続けている。彼のこの態度は周囲のあらゆる人に向けられており、だから周囲が協力を惜しまないのだな。今回は長谷川彰良の奥様のご両親も含め、ファミリーほぼ総出の応援になる。

 

テーラードスーツにうるさい服マニアのみなさん。イギリスやイタリアの有名テーラーの追っかけもいいけど、果敢にチャレンジを続ける日本の次世代の応援もよろしくね。彼らの発想や行動から学ぶこともたくさんあるんだよ。

Be Prepared は、ただじっと待って備えておくという意味ではない。常に動き続けることによってチャンスを引き寄せよという意味である、ということを彼の行動を見てつくづく思う。

 

今度のトークショーでは、そうした現代のブランド価値の伝え方を中心テーマとして話します。人生のすべてを賭けてこの展覧会に挑む、長谷川彰良の考えをぜひ彼の言葉で聞いてみてください。そして私は、自分が取材してきた事例と、現在関わる諸事業のなかから見てとれるさまざまな事例からピックアップしたブランド価値の「コミュニケーション」について話そうと思います。あとの3分の1は、会場の皆様からインターネット経由で寄せられた、あるいはその場で寄せられた、質問に答える形でディスカッションをします。いったいどんな質問がとんでくるのか。ライブ感を共有できるトークショーになると思います。

お目にかかれますことを楽しみにしています。

 

展示スケジュール

東京-渋谷   5.23 ~ 28   ギャラリー大和田

開場 10:00~21:00   初日のみ 15:00 Open   最終日のみ 17:00 Close

愛知-名古屋   6.12 ~ 17   ギャラリー矢田

開場 10:00~19:00   最終日のみ 17:00 Close

 

トークショー 長谷川彰良×中野香織

<東京会場>

日時 5/26(土)14:00~15:30 (受付け開始 13:30)

会場 東京都渋谷区桜丘町23-21 10F 文化ファッションインキュベーション

聴講料 2,000円

お申し込みは、こちらからお願い申し上げます

<名古屋会場>

日時 6/17(日)13:00~14:30 (受付け開始 12:30)

会場 愛知県名古屋市東区大幸南1丁目1−1−10 カルポート東 4F ギャラリー矢田 第一展示室

聴講料 2,000円

お申し込みは、こちらからお願い申し上げます

 

 

 

 

 

 

 

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