試写拝見しました。日本語のタイトルは「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」。原題はMary Queen of Scots.

この二人の女王をめぐる史実は、どんなドラマよりもドラマティック。それゆえ何度も何度も映画化、ドラマ化されてきた。今回の映画は、女性のトップを支える男性社会という視点もちらりとさしはさみながら、新しい解釈による濃密なストーリーテリングで編みあげられている。

ふたりの女王が面会するシーンの緊迫感たるや。それぞれの背景を負い、それぞれの決断をしてきた女王の孤独や悲しみが迫ってきて、涙なしには見られなかった。演じる2人の女優がまたすばらしいのです。とりわけエリザベスを演じたマーゴット・ロビー。なぜあの白塗りなのか?かつらなのか?理由も明かされるのだが、ヘアメイク、衣裳の力も手伝って、刻々と変わりゆく女王の一生を演じきってあっぱれ。

女王ふたりのライバルとしての争い、という視点は男社会のもの。おうおうにして、男性社会は策謀の網をはりめぐらし、女同士で争わせるように仕向け、自分たちがまんまとおいしいところを手にしていくことがある。比べるレベルではないが、私もかつて(大昔のことだが)そういう策謀にひっかかりそうになったことがあるので、このあたりのことは痛いほど迫ってくる。表面だけちやほやする男たちの策謀に乗せられてしまうと、とんでもない罠が待っているのだ。

Mary Stuart: Do not play into their hands. Our hatred is precisely what they hope for. (メアリー・スチュアート:男たちの策略の手に落ちてはいけません。私たち女王ふたりが憎み合うこと、それこそ彼らの思うツボなのです)

美しくて勇敢である、ということが必ずしも女性リーダーにとっては有利に働かず、かえって女性にとっての大きな罠になることがある、という戒めを見せてくれるのがメアリー・スチュアート。彼女の美しさがあだになり、敵を作り、血まみれの惨事を招いたばかりか、最後には国を追われる羽目になった。

Elizabeth: Your beauty, your bravery, now I see there’s no cause for envy. Your gifts will be your downfall!  (エリザベス:あなたの美しさ、あなたの勇敢さをかつて私はうらやんだ。でももううらやましくはない。あなたのその美質があなたを転落させたのですから)

最後には「男」としてふるまうことを決断し、そのように行動したエリザベス。それぞれに背負ってきた歴史があってこうせざるをえなかったので、誰が悪いとか誰が正しいということは言えない。

メアリーは処刑され、時間は流れる。メアリー・スチュアートが生んだただ一人の息子が、子供を生まなかったエリザベスの跡を継いで、イングランドとスコットランドがはじめて合併する。両国の平和を願っていた2人の女王の意志は、このような形で時間が解決した。

こういう史実を見るにつけ、やはり「神の意志」というのがどこかで働いているように思えてならない。何度たどっても感慨深い物語。

アン女王、ヴィクトリア女王、エリザベスにメアリー、と女王映画も続きますね。嬉しい悲鳴です。「ふたりの女王」では俳優の人種も多様。アジア系のジェマ・チャンもエリザベスの侍女役として出ていてまったく違和感なく、この史実の現代的な解釈を促していて、嬉しくなりました。

「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」 Mary Queen of Scots
監督:ジョージ・ルーク 出演:シアーシャ・ローナン、マーゴット・ロビー、ジャック・ロウデン、ジョー・アルウィン、ジェマ・チャン、マーティン・コムストン、ガイ・ピアース、イアン・ハート
配給:ビターズ・エンド 3月15日 TOHOシネマズ全国ロードショー

Elle Japon 3月号発売です。

ファッションドキュメンタリー映画の特集があります。

マックイーン映画について、ミニミニコメントをしています。(「あの人の視点」)

ファッションデザイナーについて、映画から学びたい人にはお勧めの特集。ぜひチェックしてみてくださいね。

今週も終わらせるべき締め切り満載のほか、新しいプロジェクトがいくつか始動します。機会をいただけることに感謝して、ひとつひとつ確実に丁寧に完遂することを心掛けつつ没頭したいと思います。

みなさまも風邪やインフルの予防を万全に、どうぞ充実した一週間をお過ごしくださいね。私の予防法はビタミンCの多めの摂取。あとは笑うことと、強くて美しい人の心のあり方をフォローすること。免疫力を高めるらしい。それぞれの工夫で厳寒の季節を乗り切りましょう。

「女王陛下のお気に入り」(The Favourite) リーフレットにコメントしました。以前、試写直後に本ブログでも紹介しましたが、18世紀初頭の男女宮廷衣裳も見どころです。バロックからロココの過渡期のスタイルですが、現代の観客も魅了するようにアレンジが加えられていて、斬新な印象。狩猟服、乗馬用馬具などは、着たい、と思わせる。デザイナーはアカデミー賞3度受賞の大御所、サンディ・パウエルです。ヒストリカルなファッションが好きな方には超おすすめよ。あまりパブリシティには出てないのですが、メンズの宮廷スタイルもなかなか面白いのです。男性もかつらにメイク、フリルにハイヒールの時代ですから。

ストーリーは激辛ブラックユーモア。あとからじわじわくる感じ。

なんとケンジントン宮殿では、この映画のコスチューム展が開催中。こちら。

いいなあ、この展覧会。取材に行きたい。スポンサー(掲載先)大募集!!

アン女王スタイル着付けの様子は、Historic Royal Palaces がYou Tubeで公開しています。↓ とてもひとりでは着られない当時の宮廷衣裳の内部構造がわかります。

<追記>
この日、アカデミー賞ノミネートの発表がありました。この映画は最多10部門にノミネートされました。


・作品賞
・監督賞(ヨルゴス・ランティモス)
・主演女優賞(オリヴィア・コールマン)
・助演女優賞(レイチェル・ワイズ、エマ・ストーン)
・脚本賞(デボラ・デイヴィス、トニー・マクナマラ)
・編集賞(ヨルゴス・モヴロブサリディス)
・衣裳デザイン賞(サンディ・パウエル)
・美術賞(フィオナ・クロムビー)
・撮影賞(ロビー・ライアン)

女優三人はトリプルノミネート。助演をこの2人が争わなきゃいけないところに不条理を感じます。どちらもそれぞれにキレ方がすばらしいので……。2月25日に発表されます。もうノミネートだけで十分偉業、おめでとうございます。

まずはニュースから。最近の男性の俳優に求められるのが、美しく整えられた筋肉であるというお話。言われてみれば、意味なく脱いで上半身裸になりますよね、最近の俳優は……。筋肉も「顔」になっていると思う。元記事こちら

さて、12日付の日本経済新聞、広告欄です。ウェッジウッドの広告ページでコメント協力しました。住宅事情を考えると、お雛様や五月人形を置くことが厳しいこともある。そんなときには、ウエッジウッドの節句プレートで祝うというのもありではないでしょうか、というご提案です。

 

季節を感じる工夫っていいですよね。子供の頃はおひなさまを一体、一体、出したりしまったりということをしていましたが、いまは時間も収納場所もままならない。こんな上質なプレートをさりげなく飾ることで節句を感じられれば、それもまたよいのではと思います。7段おひなさまはホテルなどで飾られているものを見に行くとか。実際、いまのホテルは伝統的な季節感を伝えていくという役割も果たしていますね。

まずは、ニュースから。プリンス・オブ・ウェールズならぬプリンス・オブ・ウールズの最新情報です。チャールズ皇太子はサンドリンガム宮殿の羊を3000頭から15000頭に増やす計画を発表しました。皇太子はオーガニック系実業を一貫して続け、成功させているビジネスマンでもある。イギリスの利益とも合致。80年代から方向にブレのないビジネスセンスがいい。

Prince of Woolsっていう、記者のおやじギャグが入ったネーミングもイギリスらしくていいですね。

詳細記事は、テレグラフ紙、こちら。

さて、日本経済新聞夕刊連載「モードは語る」。12日付は、「Camp キャンプ」について書いています。2019年のトレンドワードの一つになるはず。ファッション学の学徒のみなさまは、しっかりおさえておいてね!

Photo © Johnny Dufort ヴァージル・アブロー オフホワイト 2018プレフォールの作品。写真はメトロポリタン美術館にご提供いただきました。
Photo © Johnny Dufort  フランコ・モスキーノ 1989秋冬コレクションより。メトロポリタン美術館提供。

北日本新聞別冊「まんまる」連載、ファッション歳時記第88回です。

100回目のゴールが見えてきました。とはいえ何が起きるかわからない。並行して進めなくてはいけない新しい仕事もどんどん増えていきますが、確実に、誠実に、ひとつずつ(と自分に言い聞かせる日々)。

先日ご紹介した「エスタブリッシュメント」に先立つオーウェン・ジョーンズの衝撃のデビュー作、「チャヴ」。

最初の作品だけあって、こちらのほうが鮮烈に、よりエモーションをゆさぶる筆致で描かれている。翻訳もうまい。

サッチャー主義こそが、地域のコミュニティの団結と、労働階級の美徳や倫理を壊してしまった。その結果、もたらされた「自己責任論」。弱者はますます虐げられ、かつてあった労働者階級の美徳はどこへやら。今はまったく新しい、くず扱いされて当然という「チャヴ」という階層を生み出すに至った。

チャヴの生態、チャヴをめぐる数々の事件の描写もすさまじいけれど、そういう階層は人間以下だから虐げて当然、というイギリスの中産階級以上の階層の態度や言動はさらに信じがたい。人種や宗教や性的嗜好が異なる人は寛大に受け入れるし、差別を許さないけれど、同じ民族の下層階級チャヴはいじめほうだい。なんだこれは……。労働者階級の味方であるべきだったニューレイバーも、結果として同じ「エスタブリッシュメント」側としてチャヴ増殖に寄与していたことが示され、空恐ろしくなる。

新自由主義の結果、似たような状況がおそらく世界中で起きている。日本でも。

なんでもかんでも民営化、規制緩和してしまい、自己責任ですべて片づけられてしまう社会というのは、こういう末路をもたらすのか。

ブレグジットの国民投票の結果がああなってしまったのも、原因の源をたどればサッチャー主義にあることを気づかされる。

もう「キングズマン」のエグジーをこれまでと同じ目では見られない。これを読めばエグジーの家庭や育った地域がなぜああだったのか、痛みとともに理解できる。

現代のイギリスに関して何かを語るためには、これを読んでおかねば話にならない。弱者にツケを回し、「自己責任」でなんとかやれという現代日本の行く先を考えるときにも、たいへん参考になる。それほどの必読書。読んだのが遅きに失した感もあるけれど、でも読むことができてよかった。

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北日本新聞の高校生向け新聞”Future” vol.7 にて、お悩み相談室の回答者デビューしました。

それにしてもこの回答者のラインナップ。自分ではごく平均的な常識人だと思っていましたが、どうやら世間では私は「変人」のカテゴリーにくくられていたのだなということを知る。

そして活字になってから気が付いたのですが、「本気で~ならば」と始めている回答が多いね。

悩んでいる渦中の人は、どうにもならないから悩んでいるのだろうけれど、どうもこうした「ともだち」がらみの悩み事相談を読んでいたら、「本気で自分の日々を生きてるのか?」という疑問がごく自然にうかびあがってきたんですよね。人の目、気にしすぎ。「みんな」(って誰)に嫌われないことばかり気にして10代の貴重な時間を浪費していたら、いつまでたっても本気を出せない、うろうろするばかりのつまらない大人になってしまいますよ。(えらそうな言い方でスミマセン……m(__)m)

人目を気にしなさすぎる私は、だから「変人」枠なのか……。

ロンドンファッションウィークメンズ開催中。デイヴィッド・ベッカムが一部所有するケント&カーウェンは、戦前ドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」とコラボしたコレクションを発表しました。詳細は「ガーディアン」のこちらをご参照ください。


Special Thanks to Photograph: Jamie Baker for the Guardian

極太ストライプの上着、固結び調のネックウエア、なかなかかわいい。

Peaky Blindersはいま話題にのぼることが多いBBCドラマです。1919年のバーミンガムに生息したギャングのストーリー。この時代のコスチュームって凝っていて、美しいんですよね。

BBCのHPより。Peaky Blinders

写真を見ているだけでテンションが上がります。多くのデザイナーがそう感じたようで、インスパイアされるブランドが多々。

マーガレット・ハウエル、ドルガバ、アレキサンダー・マックイーンなどがこの時代にインスパイアされたコレクションを発表しているという記事はこちらをどうぞ。

イギリスのコスチュームドラマは脚本も衣裳も俳優もセットもレベルが高くて、影響力が大きいですね。ダウントン・アビーの映画版ももうすぐ公開になるし、1920年代(前後)ブームは今年、しばらく続きそうですよ。

今年最初のスタイルアイコンは、アレキサンダー・マックイーンです。

読売新聞のこの連載もこの秋に100回を迎えます。連載開始当初は50人もいるかな?というおぼろげな感じだったのですが、100回の区切りが見えてきたというのは感慨深い。秋までおそらくあっという間。気を引き締めて一回一回、着実に重ねていきます。

春公開になるドキュメンタリー映画は、スピード感もありドラマティック。お勧め。

「マリー・クヮントとヴィヴィアン・ウエストウッド」コラム掲載のEnglish Journal 2月号は、本日発売です。こちらは契約上、来月にならないと全文をアップできませんが、よろしかったらぜひ本誌をお手に取ってご覧くださいね。

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アメリカの議会における歴史的瞬間。初のムスリムの女性、初のネイティブアメリカンの女性、最年少の女性……。晴れやかでファッショナブルな多様性は未来の希望を感じさせる。「男性のスーツに準じる」服を無理に着る必要なんてまったくないのだ(そういう服を着て安心するならもちろん着ればよいのですが)。NY magazine CUTに紹介されるこちらをご覧になってみてください。

それぞれのアイデンティティに根付いた装いと、人柄を伝える心からの笑顔、過不足のない優しい自信に満ちた振る舞い。「着るものがない」とお悩みの女性エグゼクティブのみなさん。ここに何らかのヒントがありませんか。


Congresswoman Rashida Tlaibのインスタグラムより。彼女は 下院議員になった初のPalestinian-American woman。

上のドレスはアメリカの政治史に残る服になるだろう。感慨深い。

あけましておめでとうございます。みなさまにとりまして、2019年が素晴らしい一年となりますよう、お祈り申し上げます。

旧年中のあたたかなご交誼、ご支援に心より感謝します。応援してくださる方、頼ってくださる方をできるだけ幸福で満たせるよう、いっそう力を尽くしたいと思います。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

おおみそかと年明けは、富山にて三世代ファミリーで過ごしました。上は立山連峰からのぼる初日。元旦の朝は雲一つない快晴に恵まれて、白い雪と真っ青な空のコントラストが幻想的ですらありました。

呉羽山丘陵。どこまでも澄み切っている冷たい空気。
木々の間から太陽が顔を出すという瞬間が最高(毎年、どこにいてもこの瞬間を撮っている)


1日の夕方には東京。東京ステーションホテルのラウンジで軽く夕食をいただききました。この天井の高さはいつ来ても快いですね。

強く主張しすぎない、軽やかなつくりゆえにいっそう華やか。
長男撮影。笑

今日から本格的な仕事初めです。今年は旧年からもちこしたいくつかの課題含め、節目となる大きな仕事が山積しています。エゴのためではなく誰かを幸福や愛で満たせる仕事なのか? 10年後にも受け継がれていく価値のある内容なのか? という基準を忘れず、誠意をもってコミットしていきたいと思います。