Glory is a kind of Stealing

2020年2月10日

  クリスティーズジャパン代表取締役の山口桂さんの「美意識の値段」。アートの価格の基準について、現場の目利きだからこそできる説明。最近のビジネス書によくある「教養として知っておきたいアート」みたいな表層的アプローチを潔く無視していて、文体や使う文字も独特でクセが強い(そこがよい)。ライターのクレジットがあるので、ライターの方が聞き書きされたのかもしれないけれど、文体に「本人らしさ」を残している。

美術品をめぐるエピソードにも驚いたり笑ったり。楽しく学べる一冊です。

美術品には必ず「来歴」がある、という定義。ラグジュアリーの定義にも応用可能ですね。

 

 ポジティブで能動的なことを書いたり話したりすることが多いですが、身近な人が何人かこのような思い(「生まれてきたことじたいが苦しい」)にさいなまれています。私の中にも時折、こういう挫折や虚しさの感情は芽生えます。生きていることの徒労感、不条理感……。そういう感情に対してはどんな「ポジティブな」ことばの慰めも空転するのですよね。そうした絶望にも寄り添う言葉。または、人間が抱きうるあらゆる感情に対するつまびらかな分析。

苦悩や絶望を突き詰めて突き詰めて、その先に、「生きること」の肯定へと反転する論理が圧巻。

「栄光は、一つの盗みである」ということばがとりわけ衝撃でした。栄光や勝利は、それを得られなかった人への侵害になる、と。卓越することは、それだけで他人に対する侵害なのだ、と。(それゆえに理不尽な中傷が発生することになる。)だからこそ、たまたま能力を発揮できる幸運に恵まれた時は、いっそう謙虚で控えめにしていなければならない。

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