エツィオ・マンズィーニ著、安西洋之、八重樫文・訳『日々の政治 ソーシャルイノベーションをもたらすデザイン文化』(BNN)。

コロナで自粛中に、日々の生活どころかパーソナルな健康までもが政治と直結していることを実感した。政治は権力としてそこにあるもの、おじいさんたちが料亭でこそこそやっているものなどではなく、本来、自分たち当事者がオープンに、包括的な態度で、日々作っていかねばならないものであることに、いわば目覚めた。

だからと言って政治家に立候補するとか、どこかの政党に肩入れするという方向とは全然意味が違う。ここでいう政治とは社会の在り方を作ること。はやりのことばでいえばソーシャルデザイン、ソーシャルイノベーション。それを身近な足元から自分が考えて一歩一歩築いていき、信頼できるコミュニティを作り上げていくことが、ひいては自分自身の安心や幸福として還ってくるのだ。そういう気持ちで行動していくことが、「日々の政治」なのだということを自覚したというわけである。

この本は、大きな言葉になるが、「世界の変え方」を説いている。でもさほど仰々しいことではない。自分が立っているまさにこの足元から、違和感満載の世間のロジックにはNoといい、社会の需要と自分の能力に合った生活基盤や環境のロジックを築いていくこと。実はとてもシンプルなことである。ではそのためにどのように行動すべきか? 本書はその行動の方法を語っていく。主語は行政ではなく、あくまで、日々の生活を送る私たちである。生活をする私たちこそが政治や政策の主体者となろうと説き、そのための方法を説いている。

決して読みやすい本ではない。目の前にある事実の断片をブリコラージュ的に集めていき、どう収束するのだろう、と引っ掛かりながら読み進めていくと、後半になって、「ああ、あれはそういう意味だったのか」と少しずつわかってくる。「行動の方法」といっても、ビジネス書によくあるような、「この章のまとめ」みたいのがあるわけではない。従来の方法論の慣例とは無縁の高度な領域で、アートに近い語り方をしている。訳者の言葉を借りるなら「バールのテラスでマンズィーニが熱弁している」というイメージ。そんな熱弁を前にしたら、理解できない内容があったとしても、その情熱と語り方の個性が心に残るように、私も、おそらく内容を半分理解しているのかどうか、自信がない。でも何か、今日からこういう風に考え、行動しなければという大きな刺激を受けた。

 

話題がほんとうに多岐に広がるので、包括的に正確に「これこれこういう本です」と要約したりする力量は私にはない。なので、とりわけハッと思わされた点を部分的に紹介することにしよう。たとえばコラボレーションについて。私はこれまでもたくさんのコラボレーションをおこなってきたが、その本質的な価値は何だったのかということにも気づかされた。以下、引用。

「(私たちが)コラボレーションを実行するライフプロジェクトに引き込まれるいちばんの理由は、具体的な成果が得られることに関心があるからではない。本当の理由は、まさにこのタイプのプロジェクトがコラボレーションを志向していることで生み出されること、つまり、人づきあい、信頼、共感の価値に(私たちが)( ↞ ここ本文では「彼らが」ですが自分事として考えるため変更)、気づいているからだ。人づきあい、信頼、共感は、『関係価値』である。無形資産であり、有形資産と同じくらい人間の欲求を満たすのに必要なものだ」

(途中、大幅に省略。本文読んでね)

こうしたコラボレーションの積み重ねによって、結果として、強い信頼に基づき、安心感をもたらす、参加型民主主義の新しい姿が立ちあらわれる。「プロジェクト中心民主主義」である。

そんな社会を作るという指針を頭のどこかにもってローカルでの日々の行動を積み重ねていく先に、世界が変わりそうだという希望を見せてくれる。

 

(ある朝の横浜。)

 

 

さて、話が下世話な世界にとんで恐縮ですが、「007」映画がまたしても4月に公開延期と発表されました。この映画に合わせて一年前から進んでいたコラボレーションプロジェクトがいったん3月末に停止となり、先日、再始動したばかりでどうしようかと思いましたが、もう映画ぬきで進行することになりました。プロジェクトそのものの実現も大切ですが、そうですね、マンズーニの視点で語れば、プロジェクトによって生まれた信頼、共感に基づく関係価値の無形資産としての大切さにもあらためて気づかされました。プロジェクトは多くの方を幸せにし、新しいコミュニティにつながる可能性も秘めています。プロジェクトのその先まで、マンズィーニ風に考えて作り、行動していきたいと思います。どうぞ楽しみにしていてください。

 

2 返信
  1. まり
    まり says:

    007の公開延期は残念です。しかし、このたびのプリンスホテルのプロジェクトは続行とのことで、楽しみにしています。
    前作「スペクター」公開時に、明大で田窪さんとコラボされた007講座がとても楽しかったことを思い出しました。
    おっしゃるように、プロジェクトのプロセスから生み出された無形資産こそが世界を明るく変えてゆくのですね。
    成功をお祈りいたします!

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    • Kaori
      Kaori says:

      >まりさま

      ありがとうございます。明大講座からさらにホテル仕様にラグジュアリー・アップしてお届けします! 笑
      ご期待を超えられるよう、いま、全力で準備を進めています。

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