25ans 4月号発売中です。

巻頭連載「ロイヤルの肖像」Vol. 4では、オランダ王室のマキシマ王妃について書いています。

元金融のプロである王妃は国連でファイナンシャル・ヘルスの普及にも尽力。ダイナミックな笑顔を放ち、持てる要素を最大限に発揮して周囲を照らすマキシマリズム🌹

北日本新聞「ゼロニイ」発行されました。連載「ラグジュアリーの羅針盤」Vol. 40。

いま、ファッションの価値はどこで生まれているのか? 多角的に考えさせられるイベントの所感を書いております。

写真は、アルゴリズムを用いた複雑な組織をもつテキスタイル設計を展開するHATRA。

資生堂サロンにて開催された特別なセルジュ・ルタンスの会。登壇されたのは、ルタンスと40年以上にわたり協働してきたグラフィックデザイナーの天野幾雄さんでした。1980年代からの現場を知る当事者の言葉、そして蘇ったビジュアルの数々は、日本のラグジュアリー史そのものでした。

天野氏が示唆したのは、ルタンスが「流行を作る人」ではなかったということ。ルタンスは時代の先端に立つのではなく、時間を横断しながら世界を構築する「時の旅人」(!)でした。古い/新しいという軸ではなく、自身の内的必然を通して再構築されたイメージのみが世に出る。その態度が、結果として時代を超えて残る強度を生んだ……というのが天野さんから受け取ったメッセージ。

1980年以降の資生堂との協働の数々には圧倒されました。とりわけ1985年から1989年にかけて展開されたINOUIプロジェクトが、日本企業が国際市場で美意識を提示する上での転換点となったことに深く納得。

ルタンスは「円(Circle)」を資生堂の視覚的アイデンティティとして打ち出し、太陽であり、日本であり、地球でもある象徴を通じてブランドの普遍性を構築しました。これは企業の思想を形にする行為でした。実際、制作されたフィルムはカンヌで受賞し、国際的評価を獲得します。

天野さんによれば、ルタンスの制作姿勢は徹底しています。写真の構図では、目と手の表情を核に据える。モデルを過度に動かさず、静止の中に最大の緊張を宿らせる。装飾や衣装は職人とともに制作し、セットはスタジオ内で構築する。直線的なフォントもすべてルタンスの意を汲んだ天野さんが制作し、本に登場する全文字にこのフォントがあしらわれています。写真・装飾・文字設計に至るまで自ら統括する総合芸術的アプローチです。

東洋美と西洋技術の交差点に立ち、日本の静の美学とフランス的構築力をじっくりと融合させたルタンスの姿勢は、資生堂の国際戦略とも深く共鳴していました。そして「微妙の発見」のような、土屋耕一さんによる名コピーの数々…。

結果、CMを超えた、歴史に残る「アート」が生まれました。

効率と即時性が支配する現在において、ルタンスの仕事は問いを投げかけます。本当に価値あるものは、どれだけ時間と手間をかけられたかによって決まるのではないか、と。

手仕事と感性を基盤にした徹底的な統合美学。一企業の広告を超え、日本のラグジュアリーが世界に提示し得た、ひとつの完成形だったのかもしれません。

83歳にして姿勢を正して立ったまま、情熱的に90分の講演を続けた天野氏の若々しさにも感銘を受けました。

やはり聴衆の前で座ることのなかった80代のアルマーニをふと連想しました。美を追求し続けている人は、凛とした気迫があり、「老ける」ことがないのでしょう。

ディレクターの村瀬弘行さんが着想源としたのは、ルイ・アームストロングのWhat a Wonderful World。

緑の木々、赤い薔薇、青い空、白い雲――「なんて素晴らしい世界だろう」と静かに繰り返すあの歌です。

一見すると幸福の賛歌ですが、1967年という分断と暴力の時代に、アームストロングがあの掠れた声で歌ったことを思うと、単純な楽観ではないことが伺えます。

「世界は素晴らしい」と断言しているのではなく、「それでもなお、私はそう思いたい」と自らに言い聞かせる歌。

幸福の表明というより、倫理の選択。


有松絞もまた、布を縛り、圧をかけ、染め、そして解き放つことで模様を生みます。緊張と解放を経て、はじめて柔らかさが生まれてきます。

世界が再び分断へと傾く時代に、あえてにじむ色彩とやわらかな絞りを纏うこと。


それは楽観ではなく、現実を知ったうえでの意志。世界はWonderfulであると信じる態度そのものを身体にまとうという選択なのだ……と解釈いたしました。

暴力的な時代にあって、それでも世界を肯定しようとする、人間の静かな強さを表現しようとしたディレクターの想い。絞りを通して伝わるとよいな。

村瀬弘行さんというユニークなクリエーターに関しては、『「イノベーター」で読むアパレル全史 増補改訂版』にインタビューに基づく詳しい記事を掲載していますので、お読みになってみてくださいね。


The new collection by suzusan draws inspiration from What a Wonderful World — a song often heard as a simple hymn to happiness.

Yet when sung in 1967 by Louis Armstrong, amid war and civil unrest, it was anything but naïve.
“I think to myself, what a wonderful world.”
Not a declaration — but a decision.

Not blind optimism, but the will to see beauty despite fracture.

Arimatsu shibori follows a similar logic. Fabric is bound, pressured, dyed — then released. Tension precedes softness. Constraint makes the pattern possible.

To wear such gentle gradations today, in an era once again tilting toward division, is not escapism.
It is an ethical stance.

This collection does not celebrate the world as it is.
It embodies the choice to believe it can still be wonderful.

おかげさまで大変好評を賜っておりますBe Suits!での服学、第4弾の撮影でした。

レクチャーとしては第6回目の出演となります。今回は服学レクチャーに加え、Gen S.の私物紹介のコーナーで着せ替え人形になってきました。朝9時すぎからほぼ10時間に及ぶ撮影。

今回もZ 世代を中心とするLuaazの撮影チームにお世話になりました。大量の写真をパネル化するなど、撮影当日までの面倒なプロセスにも丁寧に対応してくださっています。

これまでの服学第1回「スーツの歴史」、第2回「世界のスーツ」、第3回「女性とスーツ」、第4回「マフィアとスーツ」、第5回「映画『ゴッドファーザー』をスーツから読む」。多くの方にご視聴いただき、ありがとうございます。動画で関心をもたれたら本も手に取ってみてくださいね。

 

「あいちテキスタイルフェス2026」では、尾州ウールをどのように世界に認知させていくべきか?という課題をいただきました。チャールズ国王のCampaign for Woolのことを連想しました。以下、概要を記します。

チャールズ国王は2008年から一貫して、羊毛産業のパトロンであり続けています。

チャールズ国王がウールに本格的にコミットしたのは、まだプリンス・オブ・ウェールズ(皇太子)だった2008年のことでした。自らの農場を含む生産現場で羊毛価格が低迷し、農家の暮らしが圧迫されている現実を前に、彼は、「Campaign for Wool」という国際的なイニシアティブを立ち上げます。2010年に正式ローンチされたこのキャンペーンは、合成繊維の氾濫に押されつつあったウールの価値を、ファッション、インテリア、建築といった広い分野で再発見させることを目的としています。チャールズはここで「後援者」という立場を超え、自ら旗を振る仕掛け人として動き始めました。

以来、「Campaign for Wool」のパトロンとしての役割は、国王即位後も揺らいでいません。たんに名前を貸すのではなく、各国のWool WeekやWool Monthといったイベントの象徴的存在として前面に立ち、英国、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど羊毛生産国を訪ね歩いてきました。そこで語られるのは、ウールが「天然で、再生可能で、生分解性を持つ素材」であるという、環境時代にふさわしいメッセージです。若い頃からプラスチック汚染に懸念を示してきた彼にとって、ウールはノスタルジーではなく、未来に対する具体的な解答のひとつなのです。

チャールズの支援は、スローガンだけにとどまりません。たとえば「Campaign for Wool」10周年には、英国、オーストラリア、南アフリカ、ニュージーランドというキャンペーンゆかりの四カ国の羊毛をブレンドした記念スカーフのプロジェクトを構想しました。収益は「The Prince’s Foundation Future Textiles」や、スコットランドの老舗メーカーであるJohnstons of Elginのアプレンティス制度を支えるために用いられています。ここでは、羊毛という素材を軸に、生産者から職人教育、次世代のテキスタイル産業の担い手育成まで、一本の線で結ぶ視点が見て取れます。

イメージづくりという点でも、ウールは巧みに用いられています。戴冠を祝うロンドンのサヴィル・ロウでは、AW Hainsworthのウール生地とBritish Wool 100%のロープで仕立てたバンティング(旗飾り)が街路を彩り、国王の即位とウール産業の再評価が視覚的に結び合わされました。式典という「晴れの舞台」にウールを登場させることで、伝統的テーラリングの聖地サヴィル・ロウと、英国の牧羊文化とが同じストーリーのなかに収められていったのです。

さらに象徴的なのは、王室自身がウールの「ローカル循環モデル」を実践している点でしょう。サンドリンガムの王室農場では数千頭規模の羊が飼育され、その羊毛から、上質なウールブランケットが製品化されています。原料となる羊、紡績と織り、そして製品としてのブランケットが、王室所有地という一つの世界のなかで完結する。その様は、教科書的なサステナビリティの図式を、実物として示してみせる試みにも見えます。

チャールズは日本でもウールの魅力を語っています。2019年の来日時には、寝具などを例に挙げながら、ウールの調温性や快適性をわかりやすく紹介し、化学繊維全盛のマーケットに向けて、羊毛という古くて新しい素材の可能性を訴えました。ここでも、テーマは一貫して「よく眠れる」「心地よい」という身体感覚レベルの説得と、「環境にやさしい」という倫理的選択の両立です。

こうして見ていくと、チャールズ国王のウール産業支援は、一つの思想から枝分かれした体系のように感じられます。「Campaign for Wool」という旗印を掲げ、生産者と消費者を結び、教育と職人の未来へ資金を回し、王室自身のライフスタイルや公的儀礼の場面でウールを選び取る。そのすべてが、「自然素材を尊重し、地域の産業を支え、次の世代へ技と環境を渡す」という、シンプルでありながら現代的なストーリーに収斂していくのがみごとです。

こうした国王の活動から、尾州ウールのキャンペーンに何らかのヒントが得られないでしょうか?

(トップ写真は、近所に咲いていた桜。)

今年初の雅耀会にて、銀座和光を訪問いたしました。今回は特別に、社長・庭崎紀代子様ご自身のご案内で、時計塔から地下1階までをじっくり拝見する機会を得ました。


和光は百貨店でもセレクトショップでもなく、「和光」(和の光)という一つの美意識を貫くブランド。節度、信頼、正統性、そして時間に耐える品格。その軸によって、日本における「公式のラグジュアリー」の殿堂としてのポジションを築いてきました。

印象的なのが地下1階。写真家・杉本博司率いる新素材研究所が手がけたこの空間は、売場というより文化装置です。万年石の連続性、京都の自然石の床、与那国島の珊瑚堆積石、樹齢1000年の霧島杉による可動式舞台。


中央の舞台は約3週間ごとに更新され、工芸・ファッション・音楽・トークが交差します。SUZUSAN、CFCL、SETCHU、T&Tによる奄美泥染め、淡水パールの新解釈──日本と世界を横断するキュレーションは「陳列」ではなく、美意識の再編集です。 (SETCHUの鮎の香水もここで体験できます)

時計とジュエリーも象徴的です。制作思想まで含めて体験できる設計に、ブランドの矜持を見ることができます。老舗として日本最高峰の基準を守りながら、いまを更新し続ける覚悟そのものが伝わってきます。

とりわけ時計は、伝統技術の粋を尽くしながら、日本から世界へ最先端を発信する領域。「売る」以上に「継ぐ」そして「進める」という意思が感じられました。「よい後継者を育てていることもまた、職人の評価の対象となる」というひとことに、驚きと共に納得。

庭崎社長が語られた中で最も印象的だったのは、
「和光らしくない、と言われることに挑戦していきたい」
という言葉。

老舗が「らしさ」に安住しない。その緊張感こそが、銀座の中心から日本の最高峰を発信し続ける原動力になっています。

雅耀会としての今回の訪問は、伝統工芸の未来形が、どのように都市の中心で更新され続けているのか。その現場に立ち会う、極めて密度の高い時間でした。

ご協力を賜りました銀座・和光の庭崎社長とスタッフのみなさま、ご参加くださいましたみなさまに心より感謝いたします🌹

エスパシオ ナゴヤキャッスルで開催された「あいちテキスタイルフェスティバル2026」、実に大勢の方にお運びいただき、大盛況のうちに終了いたしました。

愛知県知事、一宮市長はじめ、そうそうたる方々もご参加くださっており、「テキスタイルの愛知」に賭ける意気込みがアツく伝わってきました。

尾州は、イタリアのビエラ、イギリスのハダ―スフィールドと並ぶ世界三大テキスタイル産地のひとつです。

底力がすさまじいのに実は日本人が一番知らなかったりします。

matohu、somartaという日本が誇るブランドのデザイナーによる三河木綿と尾州ウールを使った新作のショーもすばらしかったです。

デザイナー直々の解説つき。左からmatohuの関口さん、堀畑さん、somartaの広川さん、そしてMCの干場さん。

三河木綿×matohu. matohuらしい、環境にとけこむやさしさとやわらかさにあふれています。

尾州ウール×somarta. きらきらと繊維が光るキモノコートがスタイリッシュ。

私は第4部の尾州ウールに関するトークショーに登壇し、ラグジュアリー文化という観点から尾州ウールの強みと未来についてコメントいたしました。

・イタリアの艶と発色のよさ、イギリスのハリとドライタッチに対し、尾州ウールはソフトからハードにいたる全てのレンジが設計可能で、繊細な風合い調整に長けるため、ラグジュアリーメゾンの細かなオーダーに対応できる力があるということ。そのため、海外の名だたるメゾンに実に多くの生地を提供している(2023年以前では守秘義務あり、下請け扱い)

・ラグジュアリー文化の変化という観点からは、最近では「だれが、どこで、どのような風土のもとで作ったのか」というテリトーリオのストーリーが強く求められており(それが透明性につながる)、長い織物文化の歴史を1000年以上もち、プロフェッショナルな分業体制が整う尾州はその文脈にかなっているということ。

・若い世代の反応に感じる点としては、尾州ロリータに代表されるように、「教科書の中に出てくる名産地」ではなく、自分たちの感性でアップデートして自由に遊んでいるという点に大きな希望を見出しているということ。作り手の方も、スーツ用の生地が意外な使われ方をすることで、これまで見えなかった生地の特性を逆に学んでいるなど、双方向に良い影響がみられるのも嬉しい。

・尾州が未来に残るために必要なこととしては、ラグジュアリーブランドと対等に組むポジション取りが必須であるということ。LVMH会長のアルノー氏が2023年に来日し、約束して以来、もう産地を隠す必要はなくなっています。尾州のストーリーを前景に出し、ブランドの世界観を底上げするパートナーとして企画段階から入り込むことが未来に残る産地になるための条件です。

というようなことを全体の流れのなかで話しました

産地全体が雇用と税収を生み、シビックプライドを育てる産業文化として設計し直すことが、尾州が生きた産地として未来に残るために決定的に重要だと思います。

今後とも応援していきます。

MCの干場義雅さん、ともに登壇した国島社長の伊藤核太郎さんと。私が着用しているスーツの生地は国島のシルク混のウールで、カーディガンのように軽く着ています。仕立ては廣川輝雄さんで、裏地にはきものの裾の「八掛け」という手法があしらわれています。日本の伝統はこうしてスーツを通して継承していくことも可能、という廣川さんの素晴らしいアイディア(壇上で披露させていただきました)。ブルーのオッドベストとタイは、豊橋のSyuhariさん。

この日、予想外のできごとで嬉しかったのは、「わたのまち、応答セヨ」の岩間監督とお目にかかったこと。監督が私のコメントで力づけられ、背中を押された、とおっしゃってくださってくださり、今日は私に会ってお礼を言うことが目的だった、とまで。映画によって励まされたのは私でしたが、言葉によって翻って監督に力を与えることができたらなら、本当に良い仕事をさせていただいたことになります。こういう人との関係を大切にする監督だからこそ、あの傑作が生みだされたのだと改めて実感しました。

この映画、最後に深い本物の感動が待っています。機会を見つけてぜひ、ご覧ください。

多くの出会いと発見と感動にあふれた豊かな時間でした。実行委員会、スタッフのみなさま、ご来場のみなさまに深く感謝いたします。

この日はバレンタインデーだったことも忘れていましたが、恒例の、愛弟子さんからの薔薇が届いていました。忘れずに毎年、お贈りいただくのは本当に嬉しくありがたいことです🌹

 

 

 

 

あいちテキスタイルフェス2026 エスパシオ ナゴヤキャッスルにて開催されます。

明日2月14日(土)、尾州ウールに関するトークセッション(第4部)に登壇いたします。

入場無料です。一日中、さまざまなテキスタイルイベントを楽しめるフェス。

「繊維の愛知」の総力結集という勢いを感じます。よろしかったらお運びくださいませ。

2日がイブ・サンローラン、3日がアントワープ芸術アカデミー、そして4日がヨウジヤマモトでした。

渡邊あゆみアナが大学のイギリス科のレジェンド的先輩で、今回、初めてお目にかかり、光栄でした。あゆみアナはさすが、話の運び方、話題の切り替え方などすばらしく、とても勉強になりました。

私は衣服機能不全を起こしていたので悔やまれるところあり、見た目など軽視される枠の「文化人枠」でもスタイリストさんにアテンドしていただくべきであったと切に反省いたしました次第です。

いろんな意味で学びの多い機会をいただき、心より感謝します。

 

 

連載「ラグジュアリーの羅針盤」、大蔵山スタジオの回がウェブ公開されました。こちらでお読みいただけます。

英語版はこちらです。