クリムトが描かれているのは帯で、帯をとるとシンプルな表紙が現れます。

今の日本ではエレガンスがお上品マナーと直結しているように感じるのですが、この本を書こうと思った動機のひとつに、エレガンスという概念を、そういう表層の問題から解放したいと思ったということがあります。

エレガンスとは、お上品マナーや優雅な振る舞いのことではありません。高価なものを身につけることでもありません。容姿の美醜や年齢や富の多寡やジェンダーとはほとんど関係がありません。

エレガンスとは「どのように世界と関わるか」という判断の技法です。

古代ギリシアの身体観から宮廷の作法、近代の思想、科学の方法論、そして現代のビジネスや組織の設計に至るまで。エレガンスは時代を超えて、暴力と欲望を制御し、他者との距離を調整する知として機能してきました。

それは装いに現れ、言葉に宿り、制度にまで及びます。

美学であると同時に倫理であり、社会を動かす力として働いてきました。

アルゴリズムが「正解らしきもの」を出し続ける時代に、何を選び、何を退けるか。どこで踏みとどまるか。その判断の一つひとつが、人の品格と関係の質を形づくり、ひいては社会を変えていきます。

思想史・文化史・科学・フィクション・ファッション・ビジネスを横断し、この曖昧で誤解されがちな概念を「人間理解のための思考の形式」として読み解く、おそらく前例のない試みです。

私のこれまでの研究や仕事、思想の総決算となるような一冊です。

『エレガンス入門』。

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