「いつものような感じでイギリス紳士について書いてください」という原稿依頼が、光栄でありがたく思うと同時にいちばん難しい。言葉通り受け取ってほんとうに同じようなことを書けばマンネリになるし、かといってまったく違うことを書けば一貫していない印象を与えたりする。だから絶えず新しい情報をインプットし続けなくてはならない。それで大きく見方が変わったりするわけではないけれど、すでにあるものだけで練り直すよりもはるかによい。

書く方からいえば、まったく新しいテーマや人を取材して書くのがいちばん新鮮で書きやすかったりする。かといってそんなことばかりやっていると、仕事がとり散らかる。

どんな仕事にもマンネリとの闘いはありますね。さて。イギリス文化の知識アップデートのための本とDVD。

イギリス史の基礎の学び直しができる良書。林信吾『女王とプリンセスの英国王室史』。

なぜ皇太子を「プリンス・オブ・ウェールズ」と呼ぶのか。ユダヤ人問題の起源はどこにあるのか。ロンドンの起源は。「国王は君臨すれども統治せず」はどこの誰が言いだしたのか。(こういう基礎的なことは、昔一度学んだくらいではすぐに忘れる。)

エリザベス1世、エリザベス2世(この二人に血縁関係はない)、ヴィクトリア女王、ダイアナ妃、ウォリス・シンプソン、キャサリン妃など、王室史をいろどるおなじみのクイーン、プリンセス、コンソートなどが、ときに手厳しい視点で、描かれる。彼女たちをめぐるおなじみの人物も新たな視点から見直すことができる。

人物評価には、評価している本人が投影される。人物について書くときには、こちらが浅いとそれなりの見方しかできない。信頼を手ひどく裏切られて落ち込んでいても、苦い経験が人や自分を見る目を深める勉強のきっかけになったと思えば少しは救われる(そう思うことができればなんとか生きていける)。なによりも王室の愛憎裏切り激動のドラマは、自分の境遇を少しはマシに見せてくれる。

 

 君塚直隆先生『女王陛下のブルーリボン』(中公文庫)。安定の君塚先生の本格的な歴史研究書。注や巻末の勲章受章者リストも充実。でありながらワクワクしながら読める教養書としても成立していて、すばらしい。イギリスの王室外交に不可欠なはずの勲章、正装のときに必ず装われるブルーリボン(ガーター勲章)について、まともな知識がなかったことを深く恥じ入る……。この一冊でまずはしかと学び直します。人物や史実の説明に関しては、これまでのご著書と重なる部分も多いけど、それは復習ということで。

 こちらも君塚直隆先生。『ジョージ5世』。エドワード8世とその弟ジョージ6世の、厳しい父王です。この子供たちに起きるドラマが壮絶なために、父王ジョージ5世は比較的地味な存在でしたが(私にとって、です、はい)、あらためてどんな人だったかを知ることで、エドワード8世&ウォリスの事件も違うふうに見えてくる。

それにしてもイギリス王室はどこまでも奥が深い。

 

 

 もう授業でも何十回と扱っているほどの不滅の名作「Chariots of Fire(炎のランナー)」。ジェントルマンとスポーツ、アマチュアリズムについて、登場人物それぞれの立場から語ることができる。この映画の製作にあたっていたのが、ドディ・アルファイドだったという事実を今さらながら知る。ハロッズのオーナーの息子で、ダイアナ妃とパリで事故死した方ですね。

週刊新潮9月15日号、吹浦忠正さんによる「オリンピック・トリビア」からの発見。

 

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