Sheila Cliffe, “The Social Life of Kimono: Japanese Fashion Past and Present”. Bloomsbury.

  キモノの歴史、現在を描くとてもアカデミックな本。これは今年の3月に発売された英語版だが、日本語版が発売されたら物議を醸すのではないか。

なんといっても、「日本の着物を殺しているのはきもの学院」という旨を書いているのだから。

着物は本来、これほど着付けにうるさいものでもなく、因習にとらわれたものでもなかった。なのに、教条主義的なきもの着付け教室ではとても細かなルールを順守すること、がまんすることを強いられる。それ以外の着方をするだけで批判されるし、着物が本来もっていたエロティシズムがまったくなくなっている。これが着物から人を遠ざけている最大の要因。なるほど。

それを論じるための歴史的根拠が挙げられている点がすばらしい。現在の着物のルーツになっている江戸の小袖はたしかに、もとは下着だったのだ。身体を絞めつけ過ぎず、裾からちらりと見える襦袢の赤や裏地などがエロティシズムを演出していた。西洋にわたり、コルセットからの解放を促したのも、まさにこの時期、室内着として着られていたキモノだった。

 

21世紀に入って、着物人気がグローバルに広がり、世界中で自由な着物の着方が提案されている。(そのなかのいくつかは「文化の盗用」などと不当なバッシングにも合っているわけだが。)日本でも、きもの学院系の原理主義を破壊すべく、自由な着方を提案するスタイリストやデザイナーが続々が登場している。若い女の子も自由気ままな着方をしている。これに眉をひそめる原理主義者が多いことも知っているが(彼女たちは、自分たちこそが正しい着物の伝統を守っていると微塵も疑っていない)、しかし、本来、着物がもっと自由で楽でエロティックでさえあったことを知れば、着物の未来のためにも、現在、試みられている自由なアレンジはある程度、奨励されてもいいのかもしれないと思う。それが衰退の危機にある着物産業の発展を促すことを思えば、いっそう。

 

アカデミックなアプローチながら、写真も豊富で、一般の読者にも難しくない。より多くの日本の読者に読んでいただくべく、日本語版の登場を切に希望します。(もし、すでに企画が進行中でしたら、完成を楽しみにしています。)

 

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