もうひとつの科目「モードの神話学」も最終講義を迎えました。その日(22日)は大雪になり、この講義の直後の講義から大雪に対処する「休講」措置がとられました。ぎりぎり最終講義ができたのは幸いだったし、雪のおかげで一生思い出に残る日になりました。「あの日は大雪が降った日で」と語ることができるというのはなんと幸運なことだろう。
この科目は、ファッション史、および社会に多大な影響力をおよぼした「スタイルアイコン」とされる人物のスタイル、ことば、仕事を通して、そのアイコンが社会に向き合った心の態度(=モード)に迫るというのがテーマでした。史実やできごとをピックアップするだけだったらインターネットで簡単にできる。そうではなく、その史実はなぜ起きたのか、その出来事をもたらした人はどのような思いで行動したのか、本質を考えてもらうための講義でした。表層と深奥をつなぐ想像の習慣ができることで、今後、各自が出会うことになる人生のさまざまな困難に応用可能になるタフな心を育成できるはずというのが私の信念でした。心のモードが確立し、それが表層にふさわしく反映されるならば、毎日同じシャツとジーンズだけで憧れをかきたてる存在になりうるのだ。ジョブズのように。アルマーニのように。
そんな私の信念につきあってくれた学生への感謝と、心からの愛情と激励をこめて、ファッション史からの具体例をピックアップしたうえで、こういう話をしました。
<前提条件の確認>
・ファッションの構成要素
・強い「個」を形づくるために、日々心掛けるべきこと
<「ダンディズム」から、社会に向き合う態度のヒントを学ぶ>
・教訓1 かっこよくあることに対する恥じらいを
・教訓2 スーツ長寿の理由は「セクシー」にあることを認識せよ
・教訓3 抵抗を経て勝ち取る「普通」をめざせ
・教訓4 手に入れた時が最高、ではない
・教訓5 シリアスに受けとめすぎない
・教訓6 マイナスをプラスに変える、スーパーポジティブな心のモードを
<ファッション学の教養から、パワフルに生きるための心のモードを学ぶ ~自分の人生の「主人公」として航路の舵とりをするために~>
・(1)この世に不変・絶対の美はない
・(2)欠点・規格外は最強の武器になる
・(3)いま、ここを最高の場所にする
・(4)偶然を必然にする
ホンモノの出会いとは
・(5)ギフトの交換で人生は動く
・(6)「前例なし」はチャンスである
・(7)批判・中傷に対する心構え
・(8)悩むな、行動せよ
・(9)ヒーローの旅を意識せよ
どん底の乗り越え方
・(10)人生は、ペルシャ絨毯
<プレミアムなレッドオーシャンか、ラグジュアリーなブルーオーシャンか>
最後の大きな拍手の響きは一生忘れません。確実にバトンが伝わったことがわかるコメントもたくさんいただきました。読んでいたらほんとに泣けてくるものばかりでしたが、たぶん、他人から見ると鼻白むものなんだろうなと憶測します。ひとつだけ、ずばぬけて優秀だったプレゼミ生からのコメントをここにアップさせていただくことを、最後に免じてご寛恕ください。
「きっと多くの学生が口を揃えて言うことでしょうが、先生の魅力は豊かな教養によって内側から溢れるものなのだと思います。自分もそんな内側から魅力を迸らせられるような人間になって、日本の空の動脈を担っていきたいと思います。大学生活の中でもひときわ貴重な時間でした」
彼はひいき目なしに見ても、確実に世界の未来を担う人材です。ほかにも「早く先生と一緒に仕事ができるような一人前の男になります」(笑)とか頼もしさを感じさせてくれる言葉の数々をあふれるようにプレゼントしていただきました。みなさんほんとうにありがとう!
最後の日のキャンパスの景色が雪景色。感無量。10年前の選択を悔いる気持ちもかすかに残るが、もう前だけ向いていこう。
10年間、講義中のアクセサリーはこの子でした。アビステの笛。万一、震災が起きて建物が崩れたりしたとき、少しでも学生を守ることができる確率が高まればという防災グッズを兼ねていました。一度も吹く機会がなかったことは、幸いでした。長い間、お役目ありがとう。
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