フレデリック・マルが日本に再上陸します。フランス大使公邸で発表会がおこなわれました。

フレデリック・マルの叔父は映画監督のルイ・マル。祖父はパルファン・クリスチャン・ディオールの創設者セルジュ・エフトレ=ルイシュ。母もその部門で長らく指揮をとっていたという、サラブレッドですね。

フレデリックはニューヨーク大学で美術史と経済学を修め、卒業後は広告代理店での経験を経てから、プレステージフレグランスのラボとして知られるルール・ベトラン・デュポンに入社。そこで多くの調香師たちと出会い、彼らと親交を深めながら膨大な香りの原料に対する知識や調合、構成などに対する造詣を深めていきます。

多くの香水会社が「ブランドイメージ」「キャンペーンモデル」「パッケージ」「ローンチパーティー」などに奔走するなか、フレデリックは主役である「香り」そのものに焦点を取り戻すことを考えます。

そして2000年、「エディション ドゥ パルファム」(香りの出版社)を掲げた自身のブランド、「フレデリック マル」を創設するのです。

フレデリック自身は、編集者として、調香師たちを「作家」「芸術家」として扱い、彼らに自由に芸術作品を創作させ、彼らのそれぞれの名前を冠した香水を世に出すのです。つまりフレデリックはブランドのCEOにして、作家の能力を引き出す編集者。このあり方じたいが本質的ながら斬新で、持続性もある。結果、本物を求める香水愛好者たちから絶大な支持を得ています。

私自身、フレデリック・マルのことは、10年以上前に伊勢丹メンズに入ってきたときから知っておりましたが(OPENERSでバイヤーと対談しました)、その後日本で見かけることが少なくなり寂しく思っていました。このたび、エスティ・ローダー社がグローバルに事業を展開します。なんと心強いことでしょうか。

発表会ではマル氏のスピーチのあと、作家の平野啓一郎さんとの対談がおこなわれました。平野さんは、マルのコレクションの香水のタイトルの日本語訳を作ったそうです。やはり、「文学者」の訳なのですね。「享楽之華」とか「口づけの薔薇色」とか「スヰートアカシア」とか……。やや気恥ずかしさもありますが……(^^;)

スピーチからも対談からもとても多くを学ばせていただきました。とりわけ印象に残った言葉をメモメモ。(重複した発言などは、私の印象としてまとめてあるので、そのままの言葉ではないことがあります)

・一流の調香師たちに大衆向けの香水を作らせるのは、F1ドライバーにタクシーの運転手をさせるようなもの。

(中野註:タクシーの運転手をおとしめているわけではもちろんありません。ジャンルが違う、という喩えです。)

・現代は10㎝ほどのスクリーン(スマホですね)のなかですべてが完結するようなところがある。でもほんとうの満足はそこにあるのか? 私たちはスマホにできないことがやりたい。インターネットで再現できないこと。それは香りであり、人が愛を交わすことではないか。「人が愛を交わすことがなくなったら私たち香水会社は倒産してしまう」。

・人間が人間であり続けるために香水がある。

・香水はセンシュアルな欲望を育て、インティメートな関係を深めるためのもの。人と人との関係を近づけるためのもの。(スマホは逆に人と人との距離を遠ざけている)

・今後、ロボット向けのフレグランスが出るかもしれないが、ルームフレグランスと人間用香水を差別化しているように、ロボット用香水と人間用香水は分けて考えるべき

・香水の名前の役割とは、方向性を失わないための道しるべ。

・フランスの作文教育では最初に2時間程コンセプトを考えさせる。その後、2時間かけて実際に書いていく。香水もまずはコンセプトを考えるところからスタートする。

・香りを表現するために作られた言葉はない。だから調香師たちとは、料理や化学に使われる言葉を使って、独自のコミュニケーションをとっている。

100人ほどのゲストがいらした中、本物の(!)香水の香りにひたりながらもちろん最前列で聞いていたので、細部もよく見えました。フレデリックはスーツの着こなしもすばらしいのですが、カフリンクスがポップな黄色だったのね。ちらっと、わかる人にしか見えない。そしてポケットチーフもペイズリーっぽいのが5ミリほどしか見えない。こういうの発見すると、うれしくなるわ~。お宝さがしみたい(コドモか……(^^;))

 

みなさまもシグニチャー・フレグランスを探してみてね。私は「ポートレート・オブ・ア・レディ」に脳天をやられました。メンズにおすすめは、「ムスク・ラバジュール」かな。ジョージ・クルーニーもこちらを愛用しているそうですが、まさにそういうイメージ。男女ともに使える香り。

とはいえ、全種類、それぞれにまったく個性が違うので、すべて、お勧めといえばお勧めなのですが。同じ香りでも、人によって違う印象になるので、いろいろ試してみるのも楽しそうですね。意外な自分の一面を発見できるかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

0 返信

返信を残す

Want to join the discussion?
Feel free to contribute!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です