田中宏『よそおいの旅路』(毎日新聞社)にとても感銘を受けた。戦後の日本ファッション史である。

著者の田中さんは新聞記者としての晩年をファッションの世界を取材することに捧げた。経済記者として長年過ごしてきて、「ファッションなんてミーハーにすぎないと思っていた。実のところ軽蔑していた」。それが三宅一生との出会いで衝撃を受け、時代を解読する有効な装置であることに気づき、没入した。

そんな田中記者が真剣勝負で描き切った戦後の日本のプレイヤーたちの活躍。前例のないなかで試行錯誤してきた先駆者たちの苦闘、そして栄光が、生々しく再現される。

いまもなお名前を輝かせる人たち、あるいは消えていった人たちとの違い、その原因もわかってくる。文体もさすがに確かで、さまざまな読み方を許す名著だと感じた。33年ほど前に書かれた本で、もはや絶版。

ファッションの芸能化を危惧するあとがきで締められるのが1986年。いまだに状況は変わっていない。

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