あのカーネギー氏の書く『話す力』、しかも新潮社から出ているというので、ふつうのハウツー本とは異なるのではないか、という期待をもちつつ。

 

声の出し方、のような具体的なハウツーは書いてないけれど、本質をつく、ある意味ではごくあたりまえの心の姿勢が説かれる。多くの人は「人前で話す」というだけでパニックになり、この基本的な姿勢を忘れてしまうのでしょうね。

メッセージ(やりたいこと)を明確にしておくこと、情熱を維持すること、生活の管理、敵を作らぬ人格の陶冶、心をこめる、無意識レベルへの自分の掘り下げ、勝てると信じる。つまるところ、そういう日々の積み重ねがよい話し手になるための基本的大前提であるということ。

 

以下、備忘録メモ。

「知的水準が高い読者は、主張の押し付けを嫌う。押し付けにならない範囲で、はっきりと言い切る」

「聞き手を愛する人は、成功する」

「ビジネスにおける成功は、高い知能よりも個性による」

「人を引きつける人ほど、エネルギーが高い」

「プリマドンナでいるためには、社交も、友だちも、おいしい料理もあきらめなければならない」(リリアン・ノルディカ)

そして実は本書でもっともツボにはまったのは、食べることと話すこととの相関関係の話。そうそうそう、と思わずうなずき、どさくさにまぎれて「昼食講演会」を主催する方々への提言です。

「説教師、歌手は、話したり、歌ったりする予定がある前には、ほとんど食べない」という話が書かれています。⇒昼食講演会とかディナー講演会を主催する方にぜひ知っておいてほしい常識です。私もこれまでの講演でいちばん試練だなと思ったのは、昼食を、聞き手となる方々と一緒にいただき、その直後に講演をしなければならない「昼食講演会」。カーネギー自身の体験談としても書かれていますが、そもそも、食べた直後の講演は脳や直感の働きが鈍くなり、質が落ちてしまうのです。だったら食べずに待っていればと思うのですが、これから聞き手となる人に「食べ物を残す人だ」という悪印象を植え付けたくないし、そもそも同じ食のテーブルに座りながら一人だけ「食べない」でいるのは失礼だろうと思って無理に食べる。こんな状態では三ツ星レストランのお料理だっておいしくは思えない。結果、話の質は落ちる。聞き手も眠くなっている(とりわけ年長者が多い場に行くと、何割かは食後必ず寝ている)。さらに、主催者側が男性ばかりという場合、食後の化粧直しの気遣いを誰もしてくれない。こちらは歯磨きだってしたいし、リップ直しだってしたいですがそれも許されないこともある。だれにとっても、最上の結果がもたらされるわけがないでしょう。

お腹が空いては話に力が入らないでしょう、という配慮はありがたいのですが、ちがうのです。実は講演だけではなくクリエイティブな仕事に関しては、空腹時のほうがはるかに質・量ともに善い仕事ができるものなのです。こちらもプロなので、その時間に最上のパフォーマンスができるよう、食事量を含めたコントロールをしていきます。

どうしても昼食講演会をということであれば、先にスピーカーに話をさせ、そのあと一緒になごやかに食べる、という流れにしてはいかがなものでしょう。(その場合、話がつまらないと、聞いている人が空腹+つまらない話をきく忍耐の二重苦に耐えることになりますが。)あるいは聞き手にとって食後のほうが好都合というなら、その時間に間に合うように到着させていただければそれでよいです。

 

もちろん、人間界のことには常にそうではない例がつきものなので、たっぷり食べた直後によいパフォーマンスができるという方もいらっしゃるでしょう。カーネギーの本書によれば、そちらのほうが「例外」ということですね。

 

 

 

 

 

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