セルジュ・ルタンスの紹介と新作「ルペルスヴァン」を発表する資生堂のプレゼンテーション。
セルジュ・ルタンスは、「香水のクリエイター」という枠に収まりきらない。写真家、映像作家、ディオールや資生堂のクリエイティブディレクター、何より、香りに人生のすべてを託す「語り部」として、独自の美学を貫いてきたマエストロ。
1942年、フランス北部リールで婚外子として生まれた彼は、幼少期から孤独と疎外を抱えて育った。母に置き去りにされ、いじめのような目にもあった少年時代。その痛みはやがて、優しさと同等の感覚になって、香りという形に昇華されていく。
14歳で美容師としてキャリアを始めたのち、ヴォーグ誌のビューティー部門に見出され、やがて資生堂のイメージ刷新に寄与。自身のブランドを立ち上げたのは、60歳目前という遅咲きの決断だったが、込められた緻密さと深さは群を抜いて別格だった。
そして2025年、彼が世に問うた最新作が《ルペルスヴァン》。「風を突き抜けるもの」を意味するこの名は、ルタンス自身が創り出した造語であり、一篇の詩でもある。
この香りは、人生の嵐の中で、一瞬の安息と希望を与えるものに近い。雪を破って咲くスノードロップ(雪割草)に着想を得たという名前と香りは、前例がなく、なにげないのに強い。
ムスクを基調に、果実と花が交錯し、ルタンスが独自に名づけた「モヘア」というファミリーに属するこの香りは、肌に寄り添うように変化し続ける。主張することなく惹きつけ、密やかな対話を誘うような存在感。内面と静かに響き合う香りです。
ルタンスにとって香りは、言葉では届かない感情を伝える仲介者であり、時には救済そのものだという。《ルペルスヴァン》の静かな佇まいの背景にも、彼の人生の大きな転機となったモロッコでの体験が息づいている。
1968年、カサブランカの地に降り立った若きルタンスは、オレンジの花の香りに包まれて、自らの傷と向き合う時間を過ごした。以後、モロッコは彼にとって「光と再生の国」となり、多くの香水に影響を与えてきた。
《ルペルスヴァン》は、彼のそんな人生の集大成ともいえる作品。傷つきながらも前を向くすべての人に、光を届ける。そんな祈りのような神聖な感覚のある香り。個人的にはこの夏の記憶の一部はこの香りと結び付けようと思うほど魅了されました。
Serge Lutens’s latest creation, Le Perce-Vent (a neologism meaning “that which cuts through the wind”), is inspired by the snowdrop flower that blooms through frozen earth. It is a perfume of quiet resilience. It does not conquer or seduce with force; rather, it offers solace in the eye of life’s storm—a fleeting moment of light, of breath, of grace.
At its heart: a gossamer musk, laced with hints of fruit and flower, softened by what Lutens calls his unique “Mohair accord”—a texture more than a note, evoking warmth, comfort, and gentle luxury. The fragrance clings like an invisible shawl, felt more than seen.
This serene strength also draws from Morocco, a place that transformed Lutens after a fateful visit in 1968. In the orange blossom–scented air of Casablanca, he felt, for the first time, a sense of home. Morocco became his spiritual refuge—a land of light after years of inner shadow.
Le Perce-Vent, then, is not merely a perfume. It is a breath of peace, a whisper of hope—crafted for those who seek elegance not in dominance, but in tenderness.
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