ヴェルナー・ゾンバルトの『恋愛と贅沢と資本主義』(金森誠也・訳、講談社学芸文庫)読み終える。買ってきてから本棚を見たら、すでに以前に同じものを購入していることに気がついた。途中で挫折していたらしい。しおりを見たら第二章の「大都市」の途中にはさんである。洋もの翻訳学術書特有の堅さになじめなかったのだ(それでも、この本を「軽めで読みやすい」と言っている方が少なくないことをおことわりしておかなくてはならない)。

今回は資料として必要というせっぱつまった目的もあり、気合いを入れて読んだ。第三章「愛の世俗化」、第四章「贅沢の展開」を先に読み始めてから最初にもどると、文体にも慣れて、すんなり入っていけたようだ。非合法的な恋愛、そんな恋愛に対する欲望と憧れが、贅沢を広め、資本主義を発達させ、劇場やレストランのある大都市を発展させていく・・・・・・という骨子はなんとかつかめた。

現在、私たちが享受しているような都会生活のメリットや、シーズンごとに変わるモード、かわいい小物やおしゃれなインテリア。そんな「あたりまえ」にさえなった「奢侈」のそもそもの起源が、違法恋愛にある!というのがなんといってもおもしろかった。「恋愛における違法原則の勝利」という見出しがいい。贅沢の発達・都市の発展に寄与したのは、合法的な愛(結婚)ではなく、違法な恋愛である・・・というのは、現代における、愛人とのおでかけ情報誌の盛況などを見ていても実感することである。以下、とくに引っかかったことばの覚え書き。

「愛妾経済」

「優雅な娼婦が進出してくるにつれ、折り目正しい婦人たち、すなわち上流階級の婦人たちの趣味の形成も、娼婦的な方向に影響されていった」

「個人的奢侈はすべて、まず感覚的な喜びを楽しむことから起こった。(中略) 感覚の喜びと性愛とは、結局、まったく同じものである」

「富がつみかさねられたところ、しかも愛の生活が自然さながらに、自由に(あるいは奔放に)くりひろげられたところでは、贅沢もまかりとおることとなる。ところがなんらかの理由で性生活の展開がはばまれた場所の富は、消費されるのではなく、物質の所有、すなわち財貨の蓄積、しかもできるだけ抽象的な形をとって、まずは未精錬の貴金属、そしてやがては貨幣を蓄積するためにだけ使われることになる」

「奢侈が一度発生した場合には、奢侈をよりはでなものにしようという他の無数の動機がうずきだす。野心、はなやかさを求める気持、うぬぼれ、権力欲、一言でいえば他人にぬきんでようという衝動が、重要な動機として登場する」

「(メルシエの引用)次から次へと新奇なものをめまぐるしく味わったところで、ふきげんな気分だけをもたらし、愚かな出費がかさむばかり。これがモード、衣装、風俗、言語を問わず、すべてのことがただ意味もなくつねに移り変わっていく根拠となっている。裕福な人々は、やがて何も感じなくなる境地に達する。(中略)欠乏が貧者を苦しめるように、奢侈が彼らを苦しめているのだ」

「すべての奢侈を生む二つの衝動力―野心と感覚の喜び―は、他人にこれみよがしにみせつけようとする贅沢を発展させるさいに、手をたずさえてくる」

「奢侈の一般的発展の傾向 (a)屋内的になっていく傾向 (b)即物的になっていく傾向 (c)感性化、繊細化の傾向 (d)圧縮される傾向(時間的な意味で。テンポが加速される)」

「初期資本主義に女が優位に立つと砂糖が迅速に愛用される嗜好品になる」

「bijoux(小間物)は、当時は狭い意味での装飾品でなく、いわば金ピカの遊び道具、貴金属と貴重な労働でつくられた小さな宝であった」・・・つまり、現金はうけとらないけど、貴金属の小間物ならうけとるという恋人のために、紳士が買ってあげる贈り物がビジューだったわけである。<自分にごほうび>というビジューがやや切ない気がするのは、こういう起源による!?

「年寄りの独身者に見られるような情熱的な美食癖は、性衝動の一種の抑圧ではあるまいか。それなら男性の美食癖というのは、独身の老婦人がネコをかわいがるようなものではなかろうか?」・・・男ひとりでレストランを食べ歩いている美食家に、ぼんやりと感じていた違和感の正体は、これだったのか!

ルイ14世がヴェルサイユ宮殿を建てたのは、愛妾ラ・ヴァリエールへの愛情ゆえだった。多くのきらびやかなビジューは、男から女への愛の贈り物としてつくられた。モテる女は文化の発展・都市の発達・資本主義の進展の原動力だったのですね。でも、21世紀には家もビジューも自分で買えちゃうたのもしい女性が増えている。こんな女性が経済の「主役」になるにつれて、女から男への「現金に代わる贈り物需要」が増えてきたりなど、新しい奢侈文化が生まれてきそうな気配(ホストクラブなどではすでに常識?)。

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