◇名越康文先生二冊。まず『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書)。自殺寸前、ウツ(への助走期間)にある人々にとっては処方箋とも読める本。地獄は外界の現実の風景ではなく、頭というか心の中で自分がどんどん生み出しているネガティブ思考が渦巻いているにすぎない光景なのだから、頭の中の地獄を追い払うためには、「いま・ここ」だけに集中しろ、という教え。多くの宗教本、哲学書、自己啓発系の本が書いていることと通底する内容も多かったが、それらを心理学の表現で書くとこうなる、と。とくに覚えておきたいと思った箇所を以下に引用。
・「現実的に起こっている事態は同じでも、つないだジャックによってまったく違う風景に見えてくる。極端に言うと、ジャックのつなぎ方次第で、外界の物事は天国にも地獄にも見えてしまうわけです」
・「ストレスから逃れるための本当に効果的な方法は、おそらく集中力を高める訓練以外にはないような気がします」
・「うつの人はものすごくアクセルを踏み込んでいる。ところが、同時にブレーキも思いっきり踏んでいる。だから、動けないままエネルギーはどんどん消費される」「(アクセルとブレーキを同時に踏んでいるので)エンジンがヒートアップして、車自体を、つまり自分自身を傷つけているかもしれない」
・「自分がモヤモヤした気分に覆われていると思った時、『とりあえず目の前のことにちゃんと取り組もう』と思い直します。そうやって、自分がブレーキを踏んでいることに気づいただけでその瞬間に、かなりブレーキが緩まります」
・「人間は空想に殺される」「外的な事実ではなく、自分自身で内的に生産しているものに翻弄され続けていることが、実は人間の精神活動の根本にある」
・「具体的なひとつの事件が、ネガティブな思考の引き金になることはあっても、死に至る病全体の原因になることはありえない」(中略)「根本的で恐ろしいのは、心の中にとめどもなく作りだされる、もしかしたら妄想と呼んでいいくらいの、ネガティブな思考の連続のほうなのだと思うんです」
・「十分な観察力と集中力があったら、ネガティブな巨大勢力を自分で止めることは可能」(中略)「自分を苛む原因は外側に渦巻いているのだと決めつけないで、『すべては自分の心の中で起こっているのだ』と、とりあえずでもいいから理解すること。その認識を可能にするのが、この場合の観察力」
・「自分の執着を少し自分から引き離して、最良の状態に自分の心をセルフコントロールできる力を持つことが、本当の意志」
・「『これもまた過ぎ去る』は、言わば『諸行無常』を肯定的なニュアンスで捉えたような言葉です。つまり、『幸福なこともまた過ぎ去るもの」である。だけど一方、『苦しみもまた、同じように過ぎ去るもの』である」
・「ルーティンワークの仕事の中身を問わないで漫然とやっている人と、たとえルーティンワークでも中身を実感して一日一日を二度と起こらない一回性の経験というふうに、ものの本質を見据えてやっている人との間では、実力が天と地の差ぐらい違ってくる」
・「本当にクリエイティブな人というのは、『こだわり』という自分の価値観や美学を押し付ける人ではなくて、どんなミッションを与えられても独自の工夫でこなすことができる人」
・「地道さを心がけている人の方が、近い将来の『賭け』に勝つ確率が高くなる。その小さな勝利を、さらに地道につなげていくことで、ようやく僕たちは初めて自分の夢や理想に近づけるのではないでしょうか」
・「絶望と絶望的って違うんじゃないでしょうか。絶望という状態は『すべての望みが断たれた』ということですから、もう何も余計なことは考えないという、ある種、透明な境地に至っているわけですよね。でも、絶望的という状態は、いわば『生焼けの生き地獄』です」
・「絶望的というのは、まだどこかに希望を持っているんですよ。(中略)希望がある限り、ずっと苦しむわけです。これは不思議なことでもあるんです。希望が人の心を苛むわけですから。でもこの希望は、いわば勇気や開き直りを伴わない希望なわけですね。だから実は、この希望は偽の希望であり、むしろ精神のトラップなんです。別の言い方で言うと、まさにこれこそが『迷い』というやつなんですね」
脳内ジャックを切り替えるための観察力と意志力が少しでも発揮できるのは、いくばくか体力が残っている間だろう、とも思う。体力まで落ちこむと、すべてがどうでもよくなってしまう。ここ半月ほど、起こってほしくはなかったできごとが立て続けに襲ってきて、笑えない→字を書く気も起きない→声を出す気もしない→ものを食べる気がしない、という崖っぷちに来ていた。まずは食べないといかんな。
◇名越先生もう一冊。『女はギャップ』(扶桑社)。美貌でマナーも完璧な女がモテない理由と、壁を低くするための助言。まえがきから鋭い。
「人に迷惑をかけない。スマートにあっさり。そんなことを気にするのであれば、いっそ、つきあわなければよいのではないでしょうか。(中略)人と会って疲れたり、頭にきたり、絶望したりしながら、楽しさや希望や夢を見つけていくことが、つきあうということです」
「男は『臆病と気遣い』を、鎧に生きています。この鎧をうまくはがす女性たちがモテるだけの話です」
本文で助言されていることを実行するのは、はっきりいって、かなり難しいと感じる(易しく書いてはあるが)。名越先生が助言する具体的なことを難なくできる人は、やはり天性のモテ資質を備えた人か。
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