ピエール・ニネが演じたサンローラン映画も記憶に新しいのですが、さらにもう一つのサンローラン映画が公開されます。
監督がベルトラン・ボネロ(『メゾン ある娼館の記憶』)、イヴを演じるのがギャスパー・ウリエル(『ハンニバル・ライジング』)、ピエール・ベルジェ役がジェレミー・レニエ、イヴを奈落の底にひきずりこむオム・ファタールのジャック役にルイ・ガレル。ミューズ、ルル・ド・ラ・ファレーズ役にレア・セドゥ、ベティ―・カトルー役にエイメリン・バラデ、そして晩年のサンローランを演じるのが、ヘルムート・バーガー。
6日に試写を拝見しました。そしてあまりの重たさと過激さにしばらく言葉がなく、軽い気持ちではとてもご紹介できないなと感じています。
サンローランの圧倒的に美しい世界。次々と時代の空気をとらえ、人々の意識を変えていった斬新なデザインの数々。でもそのクリエーションが輝けば輝くほど、「新しいことがもう思いつかない」イヴの苦しみは果てしなく、カール・ラガーフェルドの愛人ジャックとの出会いを機に自らずるずると奈落の底に落ちていく。
ジャックの特殊な「愛し方」の表現、そしてドラッグにずぶずぶとはまっていくイヴの描かれ方がショッキングです。「エル・トポ」にさえ耐えられた私は何を見ても大丈夫と思っていましたが、ドラッグのオーヴァードースのシーンは、あとになってこたえます。
衣装、俳優、インテリア、パリの街などは息をのむほど美しく、生活のなかにファッションが溶け込んでいるさまとか、ヘルムート・ニュートンが撮ったル・スモッキングのシーンの再現とか、モンドリアンの構図で表現されるファッションショーとか、サンローランを愛する人にとっては宝石のように感じられるファッション・モーメントがアーティスティックに描かれています。退廃的なシーンもスタイリッシュに撮られているので、ひときわショックが大きいのかな。
彼を支える友人たち、とりわけルルとベティ(を演じる二人)が慈愛に満ちて美しく、冷徹にアメリカ人とビジネスを語るベルジェの存在、サンローランが不在でもコレクションを完成させるスタッフの熱意にも救われる思いがします。この繊細な天才は、多くの人に助けられて才能を発揮できた強運の持ち主だったのだということを、あらためて感じます。生みの苦しみとプレッシャーのさなかにあって、「私は、自分に耐えられない」とつぶやくサンローランが痛々しい。それを演じるギャスパー・ウリエルは残酷なほど美しい。
イヴ・サンローラン財団の協力が得られなかったそうで(それはそうだよなあ…)伝説のコレクションはじめ、すべての衣装がゼロから作られているそうです。アトリエでの作業のシーンもリアルなのですが、実際にお針子たちを雇い、彼女たちにセリフを与えたのだそうです。コスチューム・デザイナーは、アナイス・ロマン。セザール賞で衣装コスチューム賞を受賞しました。
監督自ら選曲した音楽も凝ってます。極上のソウル、ブルースが全編に響き渡ります。
ルル役のレア・セドゥ。ザ・70年代!のミューズをとても魅力的に演じています。
タイトルは「イヴ」なしの、「サンローラン」。現在の、エディ・スリマンがディレクターを務めるイヴなしサンローランと同じですね。そこになにか、深い意味があるのだろうかと勘ぐってしまいました。
人としてのサンローランの真実により深く詳細に迫ろうとする分、サンローランを本気で学びたい方にとっては観るべき映画ですが、あらかじめ、サンローランをめぐる人々やエピソードについて予習してから観たほうが、より映画に入りこめると思います。ただ、151分という長丁場に耐えるタフな体力と、過激というか、リアルすぎてグロテスクかもしれないショッキングシーンでも平静を保てる図太い神経が必要です。観客を選ぶ映画です。アート性が高く、感じ方は人によって大きく異なると思いますが、デリケートな方には、お勧めできません。時代を切り開く美を生むための、ハードな退廃。覚悟の上、ご覧ください。
© 2014 MANDARIN CINEMA – EUROPACORP – ORANGE STUDIO – ARTE FRANCE CINEMA – SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
■配給 GAGA R-15
■公開12月4日(金)よりTOHOシネマズシャンテ他全国順次公開
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