何度か紹介しているネットフリックスの優秀ドラマ「クラウン」。シーズン2のエピソードが進むにつれて衝撃が大きくなる。

たたでさえ毎回、驚きの連続なのだが、とりわけエピソード6にきて、これが真実を含んでいるとしたらよくまあこのようなドラマを作ることができたものだという感動と敬意でしばらく他のことが手につかなかった。

あのエドワード8世、ウィンザー公がヒトラーと取り交わした密約「マールブルク文書(Marburg files)」の話が出てくるのだ。あきらかなイギリスへの裏切りを約束する文書。

そしてウォリスの、ナチスドイツ高官との不倫も示唆される。


(エドワード8世とウォリス・シンプソン。退位のちに英国を追放されたも同然となり、ウィンザー公爵夫妻に)

まったくのフィクションであれば描けないこんな話。しかし真実だったらもっと怖い。実際、この夫妻は晩年、イギリスに戻ってくることができなかったので、なんらかの「裏切り」は確認されていたのでしょう。ご本人がおそらく「裏切り」と自覚していない軽率な行為を重ねたことに、問題があったように思えます。


(ドラマのなかでウィンザー公を演じるアレックス・ジェニングズ)

 

さらにさらに、「モダンエイジ」を生きるマーガレット王女の、写真家アンソニーとの赤裸々な恋愛事情。この人がやがて「スノードン伯爵」となって、やがてこのカップルはロイヤルディヴォースの第一号となるのね……。

面白すぎる英国王室ドラマ。客観的な史実と史実の合間をつなぐ、人間くさい葛藤や愛憎。誰もがなんらかのガマンや妥協を重ねて時代と折り合いをつけていく。そこに丁寧なイマジネーションが及んでいるからこそ優秀なドラマになっているのですね。

歴史を書くときにも、この点こそが重要なのだとあらためて思い知らされました。史実の羅列なら、今の時代、ウィキペディアのコピペで書けてしまう。でも、事実と事実の間にどのような想像力を働かせて人間的な物語を紡いでいくか。ここにこそ力量が問われる。というかそれだけが、AI時代にも人間の歴史家が生き残るための唯一の希望。

 

それにしても、ウィンザー公の闇の部分を知ろうともせず、手放しでそのスタイルを崇拝するメンズファッション関係者にぜひ観てもらいたいドラマです。それでもなおあなたは、おしゃれでさえあれば無条件でこの人に憧れるのか? (いやまあ、そういう憧れもまたよいかもしれないのですが、ドラマの衝撃あまりにも大きく、ついひとこと言ってみたくなりました。)

2 返信
  1. うーたん
    うーたん says:

    こんにちは。ブログで紹介されていた書籍「歴史の証人ホテルリッツ」を読んで、ウィンザー公の違う面を知りました。王冠を捨てた恋の一面だけをみていてはダメですね!

    今年もあと少し、これからも愉しみにしております。
    よいお年を

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    • Kaori
      Kaori says:

      >うーたんさん

      あの本のなかの公爵夫妻は衝撃でしたね…。
      エドワードが王位に復帰するたくらみのチャンスを阻害したのが、ウォリスの他の男とのおおっぴらな情事であった件。
      なんだか、人を平気で裏切ったり責任を放棄したりの、似た者夫婦という印象でしたが。
      こんな実態を知ると、スタイリッシュな装いもかえって軽薄に見えてくるものですね。

      うーたんさんも、良いお年をお迎えください。

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