The Three Well Dressers. 世界的にも「Well Dressers (着こなし巧者)」として名高い3名の日本人、横浜信濃屋の白井俊夫さん、SHIPSの鈴木晴生さん、そして元United Arrowsの鴨志田康人さん。それぞれ、幼少時より現在までいかにして洋服と向き合い、着こなしのセンスや美意識を磨いてきたのか、その軌跡を豊富な写真とともに語る。
白井さん、鈴木さん、鴨志田さんはそれぞれ10歳ずつ違うのだそうです。お三方の物語を通読すると、戦後の日本のメンズアパレルの状況や、その周辺の文化の歴史も浮かび上がってきます。
鈴木さんの生い立ちが、もっとも衝撃で、感慨深いものがありました。養父が米国籍で、戦後まもない時期の幼少期からアメリカ的な恵まれた環境のなかにごく自然にいらしたのです。日本人離れした立ち居振る舞いやセンスは、幼い時から育まれていたということですね。ファッションセンスにおいても英才教育や環境がいかにものをいうのか、納得するエピソードが満載でした。(鈴木さんの中身は半分アメリカ人ではと疑っていたのですが、やはりそうだったのです。笑)
白井さんが語るエピソードのなかにも、日本の戦後にこのようなことがあったのかという驚愕の事実が多々あります。
鴨志田さんと美術との関りも初めて知るエピソードで、現在の氏が色合わせに発揮する絶妙のセンスを思えばパズルのピースが合うように納得、興味深く読ませていただきました。
白井さん、鈴木さん、鴨志田さんがウェルドレッサーとして世界から敬意を受けているのは、スーツの着こなしのセンスもさることながら、それぞれの人柄による部分もきわめて大きいと思っています。誰に対しても態度を変えず、穏やかな笑顔を向け、決して媚びたりつるんだりしない。前に出ようとするエゴはなく、ふわっとした余裕があり、人柄から生まれる独特のチャームや風格を醸し出しています。本書を読むと、それぞれが乗り越えてきた苦労や経験がベースになって、そうした穏やかさが生まれているように伺われます。
お三方、それぞれに確立したスタイルは、読者がマネしてもおそらくへんてこなものになるのですよね。
One man’s style must not be the rule of another’s. (By Jane Austen)
「一人の男のスタイルは、別の男の基準にはなりえない」(ジェーン・オースティン)
それぞれの経験や考え方があって、このスタイル。だから、表層だけまねても「もどき」にしかならない。そういう意味で、「人と装い」の関係を掘り下げて考えるための参考書になるのではと思います。
現在40歳代、30歳代の若い世代にこうしたウェルドレッサーの伝統を継承するような方はいらっしゃるのでしょうか。コロナによってスーツ着用の機会がさらに減り、トラディショナルなメンズスーツはますます居所を失っている時代でありますが、それぞれの時代の洗礼を受けた若いウェルドレッサーの登場も期待したいところです。
返信を残す
Want to join the discussion?Feel free to contribute!