すでにXとThreadsに投稿して何日か経っているのですが、いまだに反響が多いので、こちらにも載せておきます。モーニングと燕尾服の違いに関する話です。影響力のある多くの方がアレを「燕尾服」と堂々と書いていたり、「フロックコート」と呼んでいたりするので見るに見かねてポストしたのですが、「そもそも違うものだと初めて知った」とコメントされた方もいらっしゃいました。ご存じの方にとっては「釈迦に説法」なのでスルーしてください。

組閣の写真で着用されているのは、昼間の正礼装モーニング・コートです。夜の正礼装である燕尾服/イブニング・テールコート(下)との違いがわかるよう図解を添えます。

上記の礼装はともに、サスペンダーでトラウザーズを吊り、ラインをまっすぐに見せるのが大前提です。(サスペンダー用のボタンをつけたうえで、アジャスターをつけるテイラーもいらっしゃるようです)

夜でもモーニングを着用するのは日本だけです。写真の出典は、私も共著者として書いている『フォーマルウェアの教科書(洋装・和装)』です。5年前のもので写真がちょっと古いかもしれませんが、両社の形の違いがわかる例として挙げてみます。

ついでながらタキシードは夜の準礼装で、燕尾服より格下です。これも上記の本に写真入りで解説してあります。

フォーマルウェアには正礼装・準礼装・略礼装×昼・夜の6パタンあります。さらにそれぞれに慶・弔の違いもあります。日本にはさらに和装のルールまで加わり、混線するのはやむなし、というところもありますね。新郎の父がモーニングで母が和装、という謎の和洋混合も日本独特です。

日本で和洋混合が定着したプロセスに、日本特有の男尊女卑に近い礼服指定があったことは忘れてはいけないことかと思います。「男性と女性皇族・宮中女官・華族のみに洋装のドレスコードが指定された」という経緯があるのです。一般の女性は「じゃあ、無視された私たちは何を着ればよいのか?」と周囲を見渡し、皇室と同じ洋装をするわけにはいかないと遠慮・忖度をして結局、横並びの和装に落ち着いた」という次第です。

男性は公的に指定されたドレスコードの洋装。そもそも公的な場に出ることを想定されていなかった女性は昔ながらの和装。詳しくは、小山直子先生著『フロックコートと羽織袴』に詳しいのでぜひお読みになってみてくださいね。

海外の方でもカップル和洋混合は見られます。各国の歴史的経緯はわからないのですが、民族衣装の美しさを世界に示したい、という意図があってご夫人が民族衣装を着られることも多いと思います。ただ、最上級の礼装が求められる場面で民族衣装を着られる場合の理想形は、ブータンのように、男女そろって着用されるケースではないでしょうか。

*私はマナー講師ではなく、こんなドレスコードがこういう経緯で存在している、と示している歴史家なので、ドレスコード指定とTPOを考慮したうえで個人が判断し、何をどう着用されるかは自由だと思っています。そもそも皇室メンバーや貴族がしばしばドレスコードやぶりをして、新しいコードを創ってきたりしているので、がちがちに順守するのも、ヴァイオレットおばあさま風に言えば「中産階級的」なのかもしれません。(中産階級を下に見ているわけではなく、ドレスコードを定めた国独特の表現です。)

写真はミキモトの展示会で飾られていた花。戦後、豊かになっていく日本で、「花嫁にはパール」という広報活動をおこない、結果、それを「ルール」であるかのように定着させたミキモトの精神を見習いたい。「ルール」を創る人が、いちばんの「勝者」ですね。

 

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