ナポリスーツの特徴に「三つボタン段返り」というのがある。

ジャケットのフロント部分に3つのボタンがありながら、通常は真ん中のボタンだけを留める仕様。上のボタンはラペルの折り返し部分に隠れており、見た目には二つボタンのようなバランスと、三つボタンのフォーマルさを兼ね備えている。

ヴィンチェンツォ・アットリーニが、1920年代後半に、従来の堅いスーツから余分なパッドや芯地をそぎ落とし、軽快で柔らかなジャケットを考案。この進化のなかで、ナポリ独特のボタンスタイル「段返り」が生まれた、ということになっている。

『王様の仕立て屋』Vol. 16を読み返していたら、こんな表現があった。

「イギリス服は2つボタンなら2つボタン 3つボタンは3つボタンときっちり作ることで威厳を主張するのだ。段返りは3つボタンでありながら1番上のボタンとボタンホールはラペルの裏に回ってしまい まったくどっちつかずのディテールだ」

「なぜナポリ人は3つボタンの一つをわざわざ使い物にならないように裁断するのか」

「一説では イギリスからナポリにスーツが伝えられたばかりの時 某店で一番上のボタンが締まらない失敗作を作ってしまった しかしイギリス服にない面白い立体がスーツに生まれ ナポリ人に受け入れられたのが始まりだという」

「一工房のイレギュラーから生まれた南イタリアを象徴するような自由でのびのびとした局面 これがベルニーニのごとく美しいラインを描けるかは職人の技量次第」

 

ナポリスーツにはまた、「マニカ・カミーチャ」という特徴もある。肩パッドを使わず、シャツのようになだらかに肩に沿った丸みのある袖付け。ギャザーが入っていることも多く、これによって柔らかな肩周りと自然なシルエットが生まれる。

 

*KASHIYAMAの動画サイト「Be Suits! 服学」内の「スーツの歴史」 「世界のスーツ」 おかげさまで地道に好評をいただいております。多くのコメントもありがとうございます。次回テーマは「女性とスーツ」「マフィアとスーツ」です。8月公開予定。写真はアラン・ドロンの「シシリアン」(1969)より。Pubic Domain.

 

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