アメリカの若者向けカジュアルブランド、アメリカン・イーグルが公開した新しい広告が話題でした(すでに次の広告が登場)。出演したのは、人気急上昇中の女優シドニー・スウィーニー。

「Great jeans(すばらしいジーンズ)」と「Great genes(すばらしい遺伝子)」をかけた表現で、金髪・青い瞳の彼女が登場します。キャッチコピーはおしゃれな言葉遊びに見えますが、一部のリベラル層から「優生思想を想起させる」「白人の美を特権的に強調している」との批判が噴出。SNSでは「ナチスを思わせる」とまで指摘する声もあり、#BoycottAmericanEagle(アメリカン・イーグルをボイコットせよ)というハッシュタグまで見られる事態となりました。

背景には、アメリカ社会特有の敏感さがあります。人種やジェンダーに関する表現は、歴史的な差別や不平等の記憶と結びつきやすく、少しの表現でも強い反応を引き起こしてきました(かつての文化の盗用問題もそうでしたね)。とくに「genes(遺伝子)」という言葉は、20世紀前半の優生学や人種差別と結びつけられやすいワード。たとえブランドが冗談半分で用いたとしても、「白人の遺伝子がグレートと暗に言っているのではないか」と解釈する人々が現れても不思議ではありません。

一方、「批判は過剰だ」という声もあります。保守派の政治家や有名メディアは「ただの言葉遊びをナチス呼ばわりするのは行きすぎ」と反論。むしろ広告は話題を呼び、開始直後にアメリカン・イーグルの株価は10%以上も上昇しました。結果的に、批判が炎上マーケティングとしてブランドの知名度を押し上げた形です。

今のアメリカ人の反応を計算しつくし、ぎりぎりのところを狙って炎上させ、名を広めることに成功したマーケティングのお話でした。

写真はアメリカの空を悠々と飛ぶイーグル。ブランドとは関係ありません。

Photo: Bald Eagle flies over Hockanum Reservoir. East Hartford, CT USA.  Paul Danese, CC BY-SA 4.0

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