“Where must we go, we who wander this wasteland, in search of our better selves?” -The First History Man (Cited from “Mad Max Fury Road”)
今回のアカデミー賞で議論を呼び起こしたのが、衣装デザイン賞受賞のジェニー・ビーヴァンでした。作品は「マッドマックス フューリーロード」(日本語タイトル 「マッドマックス 怒りのデスロード」)。
これを機内で見たのですが、最初の数分間でもうやめようかと思った。殺伐とした世界のなかに、残虐で、具合が悪くなりそうなシーンがえんえんと続く。ところがしばらく我慢して見ているとぐいぐいこの世界に引き込まれていくんですね。これは神話の世界、ジョセフ・キャンベルの世界と気づいた時には、かなりどっぷりはまりました。常に車が疾走しているのでスピード感も半端でなく、さらにゲームのように襲い来る敵を次から次へと倒していくときの快感も加わる。観終ったら完全に魅了されていました。気分の悪くなりそうな、荒廃した世界の風景もその世界なりの美学に貫かれて、細部にいたる美術の工夫があることがよくわかる。
というふうに納得すると、やはり衣装デザインの力もパワフルだったことがあらためてわかります。歴史的な衣裳と違って、こんなポスト・核戦争のすさんだ未来世界の衣裳をゼロから考えるというのは、そうとうにクリエイティブな仕事です。
シャリーズ・セロンが演じるフュリオサの「トクシック(toxic)」な戦闘着。コスプレしたくなりますよね。笑
だれもが納得する根拠あって受賞したビーヴァンなのですが、セレモニー当日は、スカル柄入りの革ジャン、ジーンズにスカーフという、ロングドレスにタキシードだらけの会場にあってはかなり浮きまくる装い。
プレゼンターのケイト・ブランシェットのブルーのドレスがまたお姫様ゴージャスだったので、対照がより際立って見えました。
そんなビーヴァンの登場を露骨に「喜ばない」オーディエンスもいて、拍手なし、しかめっつらで腕組み、という観客の映像も一緒に流れてしまいました。
ビーヴァン自身はイギリス人だけあって、「これでもドレスアップしてきたつもりなの」と笑いをかましておりましたが、「自分はドレスが似合うような人間ではない」という自覚もあり、あえての場違いな装い。しかも作品があの砂だらけのマッドマックスワールドの衣裳だから、この反逆的な「衣装」もそれなりの理由あっての装いであるには違いありません。
批判も多々ありますが、世界が注目する圧倒的なドレスアップの場にあって、おそれずひるまず自分らしいスタイルと作品への愛をミックスしてみせたビーヴァンに、私としては敬意を表したいという気持ちが強い。自分には到底できません。
いずれにせよ、ビーヴァンのこの日の装いは、マッドマックスの衣裳とともに、映画の歴史・アカデミー賞の歴史に刻まれることになるでしょう。
それにしても。砂とトラックと石油と銃とスキンヘッドに見慣れてきたあたりに、ふいにあらわれた「ワイヴズ」たちの白い柔らかな衣装の鮮烈な美しさときたら。当分の間、残像として残りそうです。
コスチュームの詳しい情報については、こちら。 音楽もいいですね。
返信を残す
Want to join the discussion?Feel free to contribute!